「へー、確かに豪語しただけあってそれなりだね」
珍しく、少し感心したように伊武が言う。
多少アクシデントがあったものの無事に夕食を作る事が出来た。 もっとも、千石はケガ以降ほとんど何もさせてもらえず専ら巴と海堂によるものであるが。
「でしょう? 伊武さん遠慮しないでもっと誉めてくれていいんですよ?」 「……謙虚さがないから減点」 「いやほんまにウマイで、巴ちゃん」
口々に誉められて得意そうになっている。 リョーマとしては少し面白くない。
「まだまだだね。この間のサワラの方が旨かった」
「えー、そう? でもリョーマくんは元々魚の方が好きな人だからなぁ」 「……ってちょっとまって。 なんで越前くんが巴ちゃんの料理食べてんの?」
訝しげに千石が言う。
「コイツ、俺のウチで暮らしてますから」 「居候なんです」 「マジ? じゃあ毎日巴ちゃんにお弁当作ってもらったりしてるの? いいなー!」 「それはしてないですよー。たまにご飯作ったりしているくらいで」
「弁当なんて作れませんよ。 人が起こしに行くまで寝てるんだから」
「ちょっとリョーマくん! 人聞き悪い!」
それを聞いて驚いたのは他のメンバーもである。 巴が越前の家に居候している事は知っていたがそんな話は初耳だ。
「巴、お前、今の話本当か?」 「い、一回だけですよ!」 「部屋まで入ってもまだ寝てたんだよなー…」
畳み掛けるようにいうリョーマ。 確信犯である。
「お前の部屋にはカギもついてないのか!」 「え、でも、普通部屋にカギなんてついてないんじゃないんですか?」
それは確かに自分の家ならそうであろう。 しかし彼女が住んでいるのは自分の家ではない。 この無防備さは傍から見ていて非常に危険だ。
一瞬勝利を確信したリョーマだったが、まだ甘かった。
「なんだ、巴。 お前越前の家に居候していたのか」 「……跡部さん、今まで知らなかったんですか?」
少し呆れたように巴が言う。 年賀状だって送っているはずなのにこの人は宛先の「越前様方」というのを何だと思っていたんだろう。 しかし跡部はそんな事はまったく意に介さない。
「どうせ居候だったらうちに来たらどうだ? 越前の家よりはよっぽど広いぜ」 「な……っ!」
思わず声をあげたのはリョーマ。
「いやあ、ありがたいですけど跡部さんの家からだったら学校が随分遠くなっちゃいますよ」
近けりゃいくのかよ! と心の中で何人かがツッコミを入れる。
「あん? だったらいっそのこと転校しちまえばいいじゃねえか、氷帝に」
「ああ、そらええなぁ。 跡部の家に行くなんて話はとりあえず置いといて」 「転校されるんでしたら我が聖ルドルフは寮が完備されているので安心ですよ?」
尻馬にのる忍足。 すかさず割り込む観月。
「……勝手にうちの部員引き抜かないでもらえますか」
海堂が抗議の声をあげる。 いつも不機嫌そうな表情をしているが、今回は特に怖い。
「なんでそんな話になってるんですかーっ!」
「あ、この豆腐サラダ美味しい」 「タケノコが入ってて春って感じですよねー」 「こっちのイカもけっこういけるわよ」
……女性陣ももう慣れたものである。
「まったく…なんで食事の話があんな風にそれちゃったんだろう?」
風呂上り、夕食時の喧騒を思い出して巴が一人ごちる。 でもまあ、食事自体は好評だったようなので満足である。
さて……残り時間、どうしようか?
・トレーニングルームに行ってみよう
・休憩室に誰かいるかな
・調理室に人影が…
・部屋に戻って寝よう
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