食堂を抜けて調理室へ。 人目をはばかるので灯りをつけることも躊躇する。 足音を忍ばせて……
「こらっ! 何をやってるんだい!」
「うわぁあっ!!」
突然の背後からの声に桃城は思わず声をあげた。
「…なーんて。 桃ちゃん先輩、こんばんはー」
そこにいたのは巴。 声音を変えるためか鼻までつまんでいる。
「なんだ、トモエかよ……ビビらせんなよ」 「へへ。竜崎先生のモノマネ、似てました?」 「あ? あー、それは全然似てね―けどな」
正直な桃城の感想に巴は軽く唇をとがらせる。
「に、してもお前、よく俺だったわかったな」 「そりゃわかりますよ。 他の場所ならともかく、ここ、調理室ですよ? どうせ夏の合宿の時と同じで 食事の量が足りない―って持って来たお菓子なんかも全滅しちゃってここにつまみ食いしに来た…ってところでしょう?」
図星である。
巴にまで行動を見透かされているのはなにやらなさけない。 ちょっと落ち込む桃に気づく様子もなく巴はなにやら調理場の奥を探っている。 すぐに得意そうに何かを桃に差し出す。
「じゃーんっ!」
「……え?」
見ると、お皿の上におにぎりが六つ。 その傍らには卵焼きまでが乗っている。
「絶対桃先輩が来ると思って夕食の準備ついでに作っといたんです!」
得意気に言う。
「おおっ! さすがトモエ! 気が利いてるじゃねぇか」 「あ、ちなみにこのうち二つは私のですから」 「……ってお前ひょっとして自分の夜食の為に作ったんじゃねえのか…?」 「いやぁそんなぁ。6つもいっぺんに食べたらお腹壊しますよ?」
と、軽口を叩きながらその場に座り込み、しばし夜食タイム。
「そういえば夏の合宿のときは桃ちゃん先輩、間違えて乾先輩の野菜汁飲んじゃったんですよねー」 「お前なぁ…嫌な事思い出させるなよ…」 「あははは…ありゃ、桃ちゃん先輩」 「ん?」
唐突に巴が桃城の顔に手を伸ばす。
「オベントついちゃってますよ?」
桃城の顔についていたご飯粒をとると、そのまま口に入れる。
「…………!」 「もー、桃ちゃん先輩、子供みたい」
動揺する桃には気づかず、あっけらかんと巴は笑っている。
「お前なぁ、こういうことは他の奴には絶対にするんじゃねぇぞ!」 「へ?」 「いいか、絶対だからな!」
薄暗がりで赤面した顔が見られなくて良かった。
「ったく、どっちが『子供みたい』だよ……」
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