ミーティングを途中で抜けてきた巴はエプロンをつけると勇んで調理室へと向かった。
本日夕食の食事当番は巴なのだ。 昼に橘に豪語した巴であったが、これだけ大人数の食事作りは夏の合宿以外では作った事がない。 今回は一人でないのがまだ救いではあるが。
「おっ、巴ちゃんエプロン姿も似合うねぇ」
早速軽口をたたく千石と、海堂。 巴を加えたこの三人が今回の食事当番である。
「さて、どうやって担当割り振りましょうか?」 「……どうせてめえが一番うまいんだからお前が仕切ればいい」 「さんせーい。 オレも何やったらいいかイマイチよくわかんないし、巴ちゃんの指示に従うよ?」
二人の言葉に、少し考える。
「じゃあお言葉に甘えて…。 まずは野菜でも切ってもらえますか?」
二人に材料を渡して大まかな指示をする。 普段は指示される側なので妙に緊張する。
そして自分の作業に入ったわけだが、その数分後。
「……あ、指切った」
ぎょっとして声のしたほうを見ると千石の左手人差し指から血がにじんでいる。
「だ、大丈夫ですか、千石さん! ぼーっとケガ見つめてる場合じゃないですよ! 海堂先輩、救急箱持ってきてください!」
巴の言葉に頷くと足早に海堂が調理室を出て行く。
「ちょっと傷見せてください、千石さん」 「え? うん」 「良かった、それほど深くはないみたいですね……」
そう言うと怪我をした指をひょいっと口に含む。
「ちょ、ちょっと、巴ちゃん?!」
動揺して思わずあげた千石の声に巴も自分の行動に気が付く。 慌てて放すが、目が合った瞬間お互い、顔が赤くなる。
「あああああ、ゴメンナサイ! いやあの、家で手切っちゃったときにお父さんが良くやってくれてたんでつい…!」 「いや、いいんだけどね…別に」 「………」 「………」
「悪ぃ、遅くなった」 「海堂くん、お帰り!」 「海堂部長! お帰りなさい〜っ!」
……なんでこんなに歓迎されてるんだ?
|
|