「ぁーあっ!」
欠伸ともうめき声ともつかないような奇妙な声をあげて巴は大きく伸びをした。 その後は机の上に両手を投げ出してへたり込む。
「テニス理論なんてわかんないよう。 那美ちゃ〜ん、助けて〜……」 「小鷹さんなら、いないわよ?」
杏の言葉に、驚いて顔を上げる。 確かにいない。
「あれ? 確かミーティングが始まったときには隣に……」 「彼女、夕食当番だから途中で抜けてたじゃないの。 ……さてはアンタ、その頃すでに寝てたわね?」
ぎく。 早川の言葉に思わず明後日の方向を見る。 一応、寝てはいなかったが難しかったのと練習の疲れも手伝って一時朦朧としていたのは確かだ。
「まったく…情けないわねぇ」 「あれ。ってことは…… 夕食当番は途中で抜けるんですね!」 「ええ。 支度に間に合わなくなっちゃうから。 私も昼食当番の時に午前の練習を途中で抜けさせてもらったしね」 「と、いうことは! 明日夕食当番の私は堂々とミーティングを抜け出せるということに! …あいた」
思わずガッツポーズをとってしまったところで背後からノートで頭をはたかれた。 振り返ると、鳥取であった。
「うう〜、何するんですか、鳥取さん」 「お父さんと同じスポーツドクター兼トレーナーを目指すんでしょう? だったら、苦手なことから逃げてちゃダメじゃないの」 「う…」
他の誰に言われるよりも鳥取に窘められるとよく効く。 自分よりも15cmも小さいはずの鳥取が大きく見える。
鳥取の腕も、最近では完全に全盛期の状態に戻ってきたそうだ。 この回復の速さは本人の努力によるものだ、と以前父が言っていたのを思い出す。
「はい、頑張ります……」 「よろしい。 じゃあ、食事に行きましょうか」
食後、小鷹とミーティングのおさらいを済ませ(反省後すぐ実行に移るあたりが巴の長所である)、入浴も済ませてしまったらどうにも手持ち無沙汰になってしまった。 当然ながら消灯までにはまだ時間がある。
「さて…、どうしようかな」
・トレーニングルームに行ってみようかな。
・休憩所に誰かいるかも。
・携帯メールをチェックしよう。
・ちょっとお散歩でもしようかな。
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