トレーニングルームにでも行ってみようかな。
部屋から出て何とはなしにトレーニングルームの方に歩いていた巴だったが、 突然腕をつかまれて引き止められた。
「はゃ? 観月さん」 「巴くん、貴方という人は……」
巴を引き止めた観月は右腕は巴の腕を掴んだまま、左手を額に当てている。 あ、眉間が寄ってる。
「観月さん、こんばんはー。 あんまり眉よせてるとそのまま固まっちゃいますよ?」 「誰のせいだと思っているんです、誰の! 貴方、そんな格好でどこへ行くつもりです」 「そんな変な姿ですか? 私」
風呂に入った後なので、浴衣を着ているが 部屋に置いてあったものだし、別におかしいことはないはずである。 そう、巴は思っていたのだがどうやら違うらしい。
「浴衣がどうとか言っているのではありません。 問題はその着方ですよ。 襟元は曲がっているし、帯は緩んでいるし。 そのままだと動くたびにさらに歪んできますよ」 「そうなんですか? 浴衣なんて自分で着たことがなかったから適当に着てみたんですけど…」
酷く、情けなさそうな顔をする。 それを見ると観月の顰めていた顔が、若干緩む。 彼女に対しては、怒った状態を維持するほうが難しい。
「…しょうがありませんね。来てください」
手招きされるままについていく。 観月の部屋である。
「はい、背中向けて」 「へ? 何でですか?」 「帯、直して上げますから。 ……前からがいいと言うのなら別にボクはかまいませんが?」
「い、いえ! とんでもない!」
慌てて背を向ける。
軽くあげた巴の両腕の下から手をやり、手際よく帯を締め直してやる。 微妙に密着しているのが巴には気恥ずかしい。
「はぁ〜、観月さん、上手ですねえ」 「まあ、貴方と比べれば……はい、できましたよ」
確かに前と比べて着心地が随分しっかりとした感じになった。 違うもんだなあと感心する。
「はい、こっちむいて。 うん、可愛い可愛い」
観月の言葉に、若干巴の機嫌が悪くなる。
「……観月さん、それ、昼間の私の言葉に対するイヤミですか。 もうお世辞は結構です!」
口を尖らせる巴に観月は苦笑した。
「んふっ、ボクは貴方にお世辞は言いませんよ」 「本当ですかぁ?」 「ええ。全くメリットがありませんからね」 「……ちょっとひっかかりますが、じゃあ素直に喜んどくことにします」
「ところで、本当にどこに行くつもりだったんですか?」 「トレーニングルームに行こうかと」 「……トレーニングルーム? 浴衣姿でトレーニングをするつもりだったんですか?」 「はい、そのつもりだったんですけど……どうかしました? 観月さん、また眉間にシワが寄ってますよ?」
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