若干の休憩をはさんだ後は男女合同練習である。 男子に混じってのスマッシュ練習を行う巴を見て千石が軽く驚いた表情を見せる。
「へえ、巴ちゃん、 カワイイだけじゃなくてけっこう強いんだな」
スマッシュ練習は相手にロブを打ってもらい、スマッシュを放つ練習であるが 相手コートにはロブを打った相手のほかにまだ二人、配置されており中々打ったスマッシュを決めるのは難しい。 先程から巴も苦戦してはいるのだが、それでもなかなかうまくコーナーを突いている。
「あん? バカかお前。 あいつも選抜選手だぜ?」 「そうそう、うちのれっきとしたレギュラーっすしね」 「だって巴ちゃんといい那美ちゃんといい青学の女子レギュラーはてっきりカワイイ子でそろえてるのかと」
巴のテニス選手としての知名度はあまり高くない。
一応一年の身で全国大会まで出場しているのだが青学にはすでに充分に注目を浴びている越前リョーマ、そして小鷹那美という一年生二人ががいる為だ。
さらにミクスド選手と言うこともあり、彼女の勝利はそのほとんどがパートナーの恩恵だろうと思われている節がある。
「しかも、巴くんは確か公式戦で負けたことがありませんね。 話によると青学のレギュラー決めに使われるランキング戦でもここ最近では全勝だとか」
「よく知ってますね…さすが観月さん」
「ちょっと待てよ。 ランキング戦って女子も一緒なのか?」
「あー…、ミクスド選手だけ、な」
「しかも負けてんのか? 巴なんかまだテニス歴1年もねーじゃねえか。ダッセエ!」
「うるせえな神尾! アイツは特別だよ。……大石先輩だって乾先輩だってアイツには負けてんだから」
「……マジかよ……」
「まさか、青学レギュラーが彼女に全敗…なんてことはあらへんよなぁ」
「いや、それはさすがに……。 タカさん、不二先輩はランキングで当たった事はない筈だし 手塚部長と菊丸先輩は確か勝ってますよ。……ただ、対戦は五月でしたけど」
「あれ? 確か彼女、前に兄貴に惨敗したって言ってたけど……」
「合宿最終日の夜に個人的に試合してたそうっスよ」
「何ぃ! 初耳だぞ俺は。 なんで越前そんなこと知ってるんだよ」
「…赤月が言ってましたから。 完敗だったって。もっとも、途中で竜崎先生に見つかって中断させられたそうっすけど」
「ところで、越前も巴に負けてんのか?」
「うるさいっスよ…。 大体、アイツを初心者と思うのが間違いなんすから」
「初心者じゃんか」
「ラケット持たせてもらえなかっただけで 物心つく前からトレーナーの親父に英才教育されてますよ。アイツ」
「そうやなあ。 巴ちゃんの試合観たんはいっぺんだけやけど あれはテニス初めて数ヶ月、っちゅうかんじには見えへんかったな」
よってたかって休日に一緒に練習して鍛え上げているのが、さらに彼女の成長に加速をかけていることには思い至らないらしい。
「フーン、勝ったのは不二と菊丸、手塚だけねえ……面白ぇじゃねえか……」
跡部が呟く。 目線の先でついにスマッシュを完全に決めることができた巴がふと振り返り、慌てたようになにかジェスチャーをしている。
「ん? 何やってんだ巴の奴」 「……後ろ?」
「あなた方、先程からなにをしているんです! ここはテニスの練習場所です。さっさと練習に入ってください! 何をしに合宿に来ているんですか!」
振り返ると同時にそこには今にも角が生えてきそうな憤怒の形相の吉川が仁王立ちしていた。 皆、蜂の子を散らすようにあわてて練習に散開する。
「あー、間に合わなかった……」
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