「うーん、 今日もいい天気っ! ってなわけで赤月、ランニングに行ってまいります!」
大きく伸びをして、さっさとジャージに着替えている。 時に6時。 朝から元気だ。
「……ジャージ、ちゃんと返しておきなさいよ」 「へ? ジャージ?」
吉川の言葉に振り返る。 確かにベッドに自分のとは別にもう一つ、ジャージの上着が。
「これ…………誰のですか?」
やっぱりね。
「おー、巴ちゃん!」 「あ、千石さん、おはようございます」
巴の姿を見つけて、上機嫌で千石が近づいていく。 今朝は若干半端な時間にランニングになってしまったのだが巴に逢えるとは相変わらずラッキーだ。
「今からロードワーク? 熱心だね」 「あはは…習慣になってますから。今日はもう少し早い時間に出るつもりだったんですけど、ちょっと色々ありまして」
海堂を探し回っていたのだが。 ちなみに海堂本人はトレーニングルームにいた。
「しかし合宿所とはいえまだ暗いから女の子一人だと危ないよ? だから、一緒に行こうよ」 「え、あ、はい! でも私、家でも毎日6時に走ってますよ」 「そうなの? 住宅街なんてなおさら危ないよ。 巴ちゃんみたいに可愛い子は気をつけないと。 なんなら俺が毎朝ガードしてあげようか?」
半分本気だったのだが、巴には軽くかわされた。
「あはは、大丈夫ですよ。 それに千石さん、誰にでもそういうこと言ってるんでしょう? もう乗せられませんよ―だ」
「誰にでもって…ちょ、巴ちゃん!」 「はい、おしゃべり終了〜。 ペースあげますよ!」
完全に取り合ってもらえない。 そういえば昨日も2年の選手たちに何か言われてたみたいだし、同室は吉川だ。
「こりゃまずったなぁ…」
この悪印象を払拭するのは結構骨が折れそうである。
大概の選手たちは折角の合宿なので朝早くから自主的にトレーニングをしている。 が、当然のことながらそれも全員、ではない。
その代表格がリョーマである。
別に練習嫌いなわけでも不熱心なわけでもないが、単に朝に弱いので早起きができないのだ。 昨日は宿舎入りの時間の関係もあって早起きを強いられたのでなおさら今日は早起きなどする気になれない。 そんなわけで、目が覚めたときにはすでに同室の桃城はいなかった。
時計を見ると、まだ朝食時間までにはけっこう時間がある。 しかし、練習にでるには些か中途半端。
「……風呂にでもいこっかな」
宿舎の風呂が24時間使えるというのは風呂好きなリョーマにとってはありがたいことである。 さっそく支度をして風呂場に向かう。
脱衣所に入ると、スリッパが一つ。 誰か先客がいるようだ。
そう考えていると浴場の引き戸が開いた。
「……………」
すぐにまた閉まった。
一瞬、思考能力が完全に停止する。
と、同時に一気に目が覚める。 そして即座に振り返り確認する。 確かに男湯。
じゃあ。
なんで。
赤月が?
一方、動揺したのは巴も同じである。
慌てて引き戸を閉めたが、声が届くように少しだけ引き戸を開ける。
「あの…ななななななんでリョーマくんが女湯にいるの?」
「ここ、男湯なんだけど」
リョーマも再び振り向く訳にも行かず、背中を向けたまま答える。
「ええっ!? ウソ! だって、昨日もこっちのお風呂入ったのに!」 「……ここの風呂、一日ごとに男湯と女湯入れ替わるんだけど」 「えええっ!」
宿舎の説明など見ていなかった巴はロードワークから帰ってきた後、今の時間ならすいているだろうと風呂にいったのだ。 当然女湯はこっちだと思い込んでいたので確認もしないで。
「…どうしよう……?」 「どうしよう、たって…オレが外ふさいどくからその間にさっさと着替えて出たら?」 「うう…お願いします……」
内心、バスタオルを巻いていて良かった、と微妙に方向違いの思考に走る巴だった。
「ったく…あんにゃろ、冗談キツイっての…」
一方、リョーマ。
「よぉ越前、やっと起きたのか? って、なんで風呂の前で座り込んでんだよ」 「あ…桃先輩。 風呂なら今入れないっすよ」
トレーニングルームから出てきた桃が怪訝な顔をしてリョーマを見る。
「ふーん。こんな朝から清掃かぁ? に、しても越前」 「……なんスか」
「お前、風呂にも入ってないのになんでそんなに顔赤いんだ?」
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