だけど、気がついてしまった。 ムシャクシャした気分のまま、教室に戻る気にもなれず、リョーマは足の向くままに屋上へと向かった。 金属製の扉を開くと強い風が直撃してくる。 が、それに少し前までのように刺すような冷たさはもう感じられない。 春は確実にそこまで近づいている。 そこからさらに上へはしごをつたって上り、大の字に寝転ぶ。 眠気は別になかったが太陽が眩しいので瞳を閉じる。 どれくらいそうしていただろう。 ふいに日光が遮られた。日が翳ったのかと思ったが瞼を開く前によく知っている声が耳に入る。 「お、いたいた。 やっぱりここにいたか。 小鷹が血眼で探してたぞ。気をつけろ?」 「小鷹が、なんで」 「モエりんを泣かしたー!…って、かなり怒ってたぜ?」 からかうような桃の言葉。 思わず口をとがらせる。 「別に、泣かした覚えはないんすけど」 確かに、リョーマが背を向ける瞬間まで、巴は涙の兆候すら見せなかったのだから。 リョーマの言葉に曖昧に頷くと桃城はその横に腰を下ろす。 実際には、教室に戻った巴は那美の顔を見た途端に堰を切ったかのように泣きはじめた。 それを桃城は知っている。だけど口にしない。 それは自分が伝えることではない。 「……モエりんの転校話、聞いたんだって?」 「桃先輩、知ってたんすか」 言ってから当たり前だと気がついた。 桃城は今の部長だ。 他の誰が知らなくても桃城にだけは伝わっているだろう。 「で、それが原因でモメたと」 「……今更、勝手じゃないっスか」 呟くように言うリョーマに、ひと呼吸置いてから桃城が静かに言う。 「で、お前はどうしたいんだよ」 「え?」 常にない桃城の声音。 「お前は、巴にどうして欲しいんだ?」 その日、校内では結局巴とほとんど口を聞くことは無かった。 小鷹はリョーマに何か言いたげだったが巴が引き止めていたらしい。 絡まれることがなかったのは幸いだが、部活中睨みつけるような視線をたびたび感じたのは気のせいじゃなさそうだ。 その巴自身もリョーマに何度か話しかけようとしていたが、リョーマは気がつかない振りを突き通した。 桃城はこの状況に気がつかないわけはないだろうにそしらぬ振り。 そんな感じで全員がぎくしゃくとしたままこの日の部活は終了したのである。 帰宅してすぐに自室へ直行するとベッドに仰向けに寝転がる。 天井の木目を眺めながら考えていたのは昼の桃城の言葉である。 『お前は、巴にどうして欲しいんだ?』 自分は、巴にどうしてほしいのか。 このまま、夢への道を先伸ばしにしてここにいて欲しいのか。 ずっと前から巴の夢は知っている。 ただ、そこまで本気だとは考えてなかった。 転校……自分とのペアを解消してまで夢を最優先するなんて。 彼女が離れて行くとわかって初めて気がついた。 自分もまた巴とのペアで頂点に立つ、と言う夢を持っていたということに。 |