「巴!」
急にかけられた声に我に返る。 相手の打ち返したボールが巴に向かっている。 打ち返せない。避けられない……!
そう思うのと同時に目の前にラケットが映った。 小気味良い音がコートに響く。
菊丸が巴に激突する寸前のボールをダイビングボレーで返球したのだ。 思わず息を吐く。 もう少しで硬球が直撃するところだった。
「いっくら練習試合だからって言っても、試合中にぼーっとしてるなんてダメダメさんだぞぉ?」
巴の鼻先に人差し指をつきつけて菊丸に注意をうながされ、うなだれる。
「す、すいません……」
別に練習試合だからといって気を抜いていたつもりはないのだが、今の一瞬集中力がとぎれていたのはまぎれもない事実だ。 試合に集中していればボールを見落とすなどという事はまずありえない。 自分のポジション、ラケットの構え、そんな事に気が行く時は大概集中力が途切れている時だ。 練習中ならばともかく、試合中はただボールを追う、それだけでいいはずだ。
連日普段よりずっと実践に近い練習が続いて疲れているのだろうか?
しかしそれだってみんな条件は同じだ。 第一、練習の密度だけで言えば合宿の間の方がよっぽどハードだった。
やはり、これは巴の気の緩みと言うしかない。
自己嫌悪に陥りそうになった巴に気がついた菊丸か巴の額を指ではじく。
「あいたっ! なにするんですか、菊丸先輩〜!」
「こぉら、落ち込むのナシ! んなコトするよりプレイで返す。了解?」
そう言うと、にっこり笑う。
「り、了解……」
額に手を当てなら菊丸を伺い見る。
普段は自分よりも子供のような言動を取る事が多い菊丸だが、こういう時はやはり先輩だ。
かなわないなあ。
苦笑しながらそんなことを思っていると、ボソリと菊丸がなにか呟いた。
「……それに、お前を守るってのも悪くない気分だしね」
「え、菊丸先輩、今なんて……?」 「ん? にゃーんでもないよんっと。 ホレホレ、試合続行、集中集中っ!」
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