深呼吸を一つ。 当然、その程度で落ち着きはしない。
負ければ終わりのトーナメント。 しかも普段の団体戦とは違い、自分が負ければ、それで全てが終わり。 誰も挽回してはくれない。
コートの向こうで対峙するのは南と忍足。 決して楽観視できない相手である。
サーブの体勢に入る前に、鳳はちらりと自分のパートナー、巴の方を見た。 目が合った。
鳳の視線に気がついた巴が、少し口の端を上げて微笑む。 スカッドサーブの成功を疑いもしていないのが一瞬でみてとれる。
パートナーを、鳳のことを信じきった瞳。
それで充分。 自分は全力を引き出せる。
改めてコートに向き直り、ボールを高く放り投げた。
「一・球・入……魂!!」
「アホな……」
忍足は目を疑った。
これで何度目のノータッチエース。
もちろん、同じチームに所属している鳳のスカッドサーブの威力は誰よりもよく知っている。 しかし、これはどういうことだ。
超高速を誇る鳳のサーブの致命的な欠点。 それはそのスピードと威力のあまり、コントロールが効かないという点。 そのはずだ。
なのに。
鳳は、この試合、未だ一度のフォルトも出していないのだ。
一般的な選手と比較しても高い成功率。そしてあの威力。 技巧にかけてはかなり高い実力を持つはずの南でさえも拾うのがやっと。
「忍足さん、ミクスドだからって、俺達を甘くみてましたね」 「ナメたつもりはなかったんやけどな。 ……鳳、普段とは打って変わったようなコントロールやないか。ノーコンのお前が」
内心の動揺を押し隠すように挑発的な台詞を吐いた忍足に反論したのはパートナーの巴だった。
「いつの話をしているんですか、忍足さん? 鳳さんは、この大会に向けてそれこそ血の滲むような特訓をしてきたんですよ。 ノーコンだったのは昔の話です、取り消してください!」 「……成る程な」
巴と鳳。 この愚鈍なほどにまっすぐな二人だからこそこの短期間で無理を可能に変えてしまったのだろう。
「忍足、確かに俺たちには油断があったようだな」 「南」 「だが鳳、俺たちは勝ちを譲る気はないぜ。 お前のサーブ、この試合中に必ず破ってみせる」
フォルトを待つような甘えた気分は捨てる。 ノータッチエースなどという無様な真似はもうしない。
決意を新たにした相手に、鳳もまた不敵に笑う。
「ええ、受けて立ちますよ南さん。 身も心も一つになった俺たちの技、誰にも破られるつもりはありませんから!」
……………………!?
「おい、鳳………」
「はい、勝ちに行きましょうね、鳳さん!」 「頑張りましょう、巴さん!」 「巴もアッサリ流すなや! 鳳も気付け!」
「身も、って……そ、そうだったのか!?」 「…………南、お前も本気にすな」
忍足は一人頭を抱えた。
今、どっと疲れたぞ。 これやから天然は。
鳳……後で覚えとれよ。
試合はこれから佳境に入る。
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