ツン、と軽く引っ張られる感覚に、木更津は振り返った。 巴が木更津のハチマキの端を掴んだのだ。
「どうかした?」
そう訊ねてみたが、別に意味などないのかもしれない。 巴の突発的行動は今に始まったことではないし、人より長いこのハチマキは掴みやすいのも事実だから。 実際問題、正式にペアを組んでいる柳沢などはよくふざけてこれを引っ張る。
「木更津さん、いつもこのハチマキしてますよねー」 「まあ、テニスをしている時は大概」
本当は別にしたくてしているわけじゃないんだけどね、と心の中で付け加える。 観月の命令と言い切るほどの強制力があるわけでもない。 別にスタイルにそれほどコダワリがあるわけでもないので断る理由もないから着用しているだけだ。 もっとも、人違いをされた証なので若干面白い気分ではないのも確かではあるが。 まあ、そんなことは言わない。 言ってもしょうがないし、巴に自分が亮へコンプレックスを持っているなんて誤解されたら最悪だ。
なので、簡潔な答だけを返す。
しかし、別に巴は理由を知りたかったわけではなかった。
「格好いいですよね、コレ! 特攻隊みたいで!」 「……そう?」
特攻隊ってナニ。
「私もしてみたいなぁ……いいですか?」 「キミが?」 「はい、おそろいで! いかにもパートナーです! って感じがしていいじゃないですか。 ……プロテニス杯が終わっちゃうまでの一時的なパートナーですけど、 でも、その間だけは離れてても木更津さんのパートナーだー、って示したいなぁ、って……やっぱ、ダメですか?」
そう言うと、少し上目遣い気味に、こちらの様子をうかがう。
…………。 ………………………。
今、異様に可愛かったんだけど。 これ、計算じゃないのが恐いよなあ。
巴がかまわないならいつでもペア組むんだけど。 テニスでも、別の意味でも。
そう、キミが望んでくれるんなら。
「くすっ……うん、別に構わないよ」
「ホントですか!? やったぁっ!」
しかもこれって一挙両得なのかもしれない。 巴は喜んでくれるし、 ……他のヤツには牽制になるし。
「…………さて、観月がどういう反応するか、見物だなぁ」 「はい? 観月さんがどうかしましたか?」 「ううん、別に。 じゃ、練習に戻ろっか」
|