テニスコート傍の芝生。 切原と巴は目をつぶってそこに寝転がっていた。
もっとも、二人揃って昼寝をしているわけではない。
「……で、ここで俺がレーザーショットを打つ!」 「じゃあ私、協力しますね!」 「わかってんじゃねぇか。 ……これで、ポイントゲット。6−4で俺たちの勝ち、ってとこか」
休憩をかねてのイメトレ中である。
切原が瞼を開いて起き上がる。 横にいる巴は、まだ寝転がって瞳を閉じたままだ。 無防備且つ無警戒な巴の姿に、ふ、とちょっとした感情がよぎる。
「こんな感じでこのあとの練習試合も……切原さん?」
日差しが遮られた感覚にゆっくりと瞼を開くと、そこに映ったのは空ではなく、切原の顔。
「マッチポイントを決めた後、俺は巴をコートから連れ出す。 『大事な話がある』って。 とりあえず逃げられたら困るから、こうやって捕まえておく」
そう言うと、切原は寝転がったままの巴の顔の両横に手を置く。 覆い被さるような体型。 こうするともう巴は起き上がることも出来ない。
「へ? 切原さん?」 「二人きりになれるような場所まで来たら、俺は言う。 『俺はずっとお前が……』」
と、そこで巴が唐突に水を差した。
「切原さん、切原さん!」
「……なんだよ」
肝心なところで中断された切原が不機嫌に応える。 っていうかなんでここで切る?!
「挨拶」
「は?」 「試合後の挨拶忘れてそのまま出てってますよ?」
一瞬、目が点になる。
「んなこと、どうでもいいだろうが!」 「よかないですよ〜。 テニスは紳士のスポーツですよ? ちゃんとしないと。挨拶は基本中の基本ですから」
偉そうに人差し指を軽く振って指摘をする巴。 一気に脱力する。
なんで、この状況でそんなセリフが出てくるんだ。 雰囲気読めねぇのかテメェは! ……読めないだろうな、コイツは。
一瞬、わざとタイミングを外されたのかとも思ったが、瞬時にその考えは消えた。 コイツにそんな器用な真似ができるはずがない。
「じゃあ試合後の挨拶からやり直しましょうか」 「あー…………もういーよ。 ほら、練習戻んぞ」
そう言うと、切原は立ち上がり、傍らに置いてあったラケットを手に取る。 ワンテンポ遅れて同じように立ち上がった巴が不満そうに切原に続く。
「えーっ!? ハンパなところで切らないで下さいよ。 話ってなんだったのか気になるじゃないですか」
「……そう思うなら、途中でぶった切るなよな……。 今日は終わり! とっととコート行くぞー」
こんなタイミング外しまくった状態で言えるか。 バカ。
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