この大会に向けて、初めてぺアを組むことになった南と巴であったが、元々ダブルスは専任の南に、練習熱心で覚えもよい巴ということもあり、練習は順調に成果をあげていた。 そこで、今日はそのご褒美も兼ねて息抜きがてらにボーリングへと出かけてみたのだが……。
「やあ、モエりんも今日は息抜き?」
ボーリング場で巴たちに声をかけてきたのは不二と、河村だった。 いや、巴に、というべきか?
微妙にひっかかりを覚えたが南はとりあえず自分の被害妄想だろうと先程の印象を流す事にした。
「不二先輩に河村先輩! 先輩たちも今日は息抜きですか」 「うん、たまにはね。 よかったら一緒にやらない?」
そんな感じでなんとなく四人でゲームをする事に。
こりゃちょっと失敗したかな、なんてことを南は思ったりする。 テニスをしている時ならば気にならないが、ボーリングでこのメンツだと、どうしても一人他校の自分が浮いてしまう。 場違いのような。
「よし、気合入れて頑張らないとね」
河村がそう言うと立ちあがりボールを手に取る。 パワータイプの彼らしく、ボールもかなり重いものを持っている。
「河村先輩、頑張ってください! ファイトーっ!」
巴が勢いよく声をかける。 と。
「……オッケェーイ! よっしゃあ、燃えるぜバーニーング!」
「……え?」
思わず呆然となる巴には気付かず、形相もラケットを持った時のそれに変わってしまった河村はその腕力に任せて思い切りよくボールをブン投げた。 当然、転がすなどという可愛らしげなものではない。
「ちょちょちょ、ちょっと河村先輩! ボールは投げちゃダメですってーっ!」
制止、一足遅し。
カッコォーン!
「うそ……ストライク……」 「ははは、すごいなタカさん」 「……おい赤月。 河村はボーリングをやる時もいつもああ、なのか?」 「いえ……違う、はず、ですけど……」
幸い、ニ巡目からは河村も平静に戻り、おおむね平和にゲームは進む。 しかしさっきのストライクは反則なんだが……と、思いつつも口に出せない南。 わかっているけど黙っている不二。 わかっていない二人。
そしてお遊びのボーリングとはいえダブルスで勝負、となると自然と勝負に熱中してくる。 場違いなんていう居心地の悪さもいつの間にか霧散している。
「よーぅし!」 「やった、南さん、ターキーですよ!」
ややはしゃぎ気味に巴が声をかけてくる。
「ああ、お前がダブルでいい感じにつないでくれたから、一本でも多く倒したかったんだが…自分でも驚いたよ。 ボーリングって地味だけど楽しいな」
最後に付け加えた一言は自分が普段地味だと言われていることから無意識に出た一言だった。 だから、なおさら。 その後の巴の言葉に動揺した。
「そうですよね! 地味でも私、大好きですよ、南さん!」
「え……?」
「どうかしましたか、南さん?」 「い、いや、なんでも! …そうだよな、考えすぎだよな……」
いくらなんでも自意識過剰にすぎる。 だけど。 一瞬自分のことかと思ってドキっとした。
……南にとって不運だったのは この場にいたのが巴と南の二人だけではなかったことと、 南と同じ解釈をしたのがやはり彼だけではなかったということである。
「はい、モエりん、喉渇いただろ? ジュース買ってきたよ」 「わーい、ありがとうございますっ!」 「ほら南、キミの分も」 「え、オレは別に……」 「遠慮しないでいいから、ハイ」
一瞬悪寒が走ったような気がしたが、人の好意を無にするのも悪いだろうと思い、受け取ったソレをそのまま躊躇なく一気に口にする。
「ぐっ……!!」
途端、気が遠くなる。
「あれ、南さん、どうしたんですか? 南さーん!」 「フフ、どうしたのかな?」 「……不二、もしかしてこれ、青酢…………」
お後が宜しいようで。
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