「よーし、休憩にすっか!」 「はーい」
パートナーの桃城の宣言で、巴は構えていたラケットを下ろした。 フットワーク練習を行なっていたので体は汗だくである。 スタミナとフットワークには自信があるほうなのだが、如何せんこの練習はキツイ。
「ちょっと顔、洗ってくるわ」 「あ、桃ちゃん先輩、私も行きます!」
汗でベタベタになった顔を水で洗い流す。 一息ついてふと横を見ると、桃城は頭を突っ込んで後頭部から直接水をかぶっている。
「あーっ、生き返るぜ!」 「気持ちよさそうですねぇ、桃ちゃん先輩……」
顔を上げると、タオルで髪も顔も一緒くたに拭く。
「おう、やっぱ直接水ん中に頭突っ込むのが一番気持ちいいな」 「じゃ、私もやってみます」 「っておい、お前、そんな長ぇ髪で……」
桃城が制止するまもなく、巴は先程の桃城のように後頭部から水をかぶっていた。
「あーっ、本当に気持ちいいですね!」 「……で、お前、そのあとどうするんだ。そのびしょぬれの髪」 「あ……」
時、既に遅し。
「ま、まあ、なんとかなりますよ。 今日は天気もいいですし」 「ったく……せっかく唯一女っぽい部分なんだからもうちょっと気を使えよな」 「それ、どういう意味ですか!」
怒って向き直った途端に髪から水滴が飛ぶ。
「ほら、水飛ばすなよ。 犬みてぇだぞ、お前」 「う〜……」
本当に犬みたいにちょっとうなって見せたが、確かに水浸しのままではまずいだろうと、髪を片側にまとめて、軽くしぼり、タオルに水気を吸わせる。 普段髪に隠れて露出する事のない白い首が、すっと姿を見せる。
「これで、ちょっとはマシですよね」 「…………」 「桃ちゃん先輩?」 「…………いや、なんでもねぇ。そろそろコートに戻るか」 「え、もうですか? 桃ちゃん先輩ってば、どうしたんですか? 急にぼーっとしたり、突然戻るって言ったり」 「なんでもねぇって。ホレ、行くぞ!」
タオルを頭に乗せたままスタスタとコートに向かっていく桃城を、慌てて巴が追いかける。
「……ったく、急に『オンナ』なとこ見せんなよな……」
一人呟いたつもりが、追いついた巴が反応する。
「え、なんか言いました? 桃ちゃん先輩?」 「のわぁっ!! な、なんでもねぇよ! とっとと練習始めっぞ!」
言えるわけない。
急に巴が『オンナ』っぽく見えてドキドキしたなんて。
普段は意識なんてしていないのに、ふとした拍子に巴が『オンナノコ』ということに気がついて動揺する。 一度意識してしまうとバカみてぇにそればっかり気になる。
カッコ悪ぃ。
そんなことばっか考えて練習に実が入らなかったら、もっとカッコ悪ぃ。
「よーっし、集中!」
自分に言い聞かせるように声を出すと、桃城はラケットを握り締めてコートに立った。
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