「芥川さん、今日は、練習はお休みしてボーリングに行きませんか?」
意気揚揚と言った巴だったが、パートナーの慈郎はあまり反応がよくなかった。 待ち合わせに到着した時点で既に眠そうな表情ではあったのだが、それを聞いた途端にさも退屈だと言わんばかりの大きなアクビをする。
…もっとも、慈郎が眠そうな様子なのは常のことなのではあるが。
「え〜。テニスやんないの。 俺、そんな余計なことやりたくねぇ」
また一つ、アクビをすると緩慢に回りを見渡す。
彼にとっては幸いな事に、待ち合わせの場所は公園である。 好みの場所は随所にあった。 じきに、最も適した場所を見つけ出す。
「ん〜……あ、あそこがいっか。 巴、こっち」 「へ? 芥川さん、どこ行くんですか?」
慈郎に手を引かれるままについていっている巴にはまだことの展開がつかめていない。 少し歩いて慈郎が足を止めた時に、やっと巴にも理解が出来た。
「到着、と。 そんじゃ、おやすみ〜」
人通りの多い場所を微妙に離れた、日当たりの良い、それでいて顔には日が直接差さない木陰。 ここは絶好の昼寝スポットだ。
早々に樹の根元に腰を下ろすと瞳を閉じる。 巴が何かいうヒマもない。
あっという間に聞こえてきた寝息に巴も諦めて、軽くため息をつくと慈郎の横に同じように腰を下ろした。
「せっかく、今日は芥川さんと遊ぼうって思ったのになぁ」
愚痴を言ってもその相手は既に眠り込んでしまっている。
それにしても。
さすがは昼寝のエキスパートの芥川のセレクトだけあって心地いい場所である。
そんなことを思いながらウトウトとしていると、ふいに肩に重みが加わった。
一気に目が覚め、一瞬、ギョッとする。 そしてすぐに状況を理解して今度は赤くなる。
慈郎がもたれかかってきたのだ。
しかも、頭だけならともかく、全身で来た。 もたれたのではなく、寝返りだったのだろうか。 巴は殆ど抱きつかれるような格好になっている。
これは、ひょっとして抱き枕状態……?
「ちょ、ちょっと、芥川さん!!」
思わず声をあげたが、慈郎が目覚める様子はない。 気持ちよさそうな寝息がすぐそばで聞こえてくる。
なんとも落ち着かない。 当たり前だが。
だが、満足そうな顔をして眠っている慈郎を見て、これ以上起こそうとすることを巴は諦めた。 こうなったら彼が目を醒ますまで誰かに見られないことを祈るばかりだ。 そうなると、公園の中でも少し奥まったこの場所はその点においてもよかったのかもしれない。
……それにしても、さっきの今でもう熟睡モードに入っているとは。
テニス以外だとボーリングにすら付き合ってくれないのか、と少し不満に思っていた巴だったが、一つの可能性に思い当たった。 いつも飄々とマイペースだからつい忘れてしまいがちだけど、慈郎も三年なのだ。
テニスの練習に付き合ってくれているだけでもありがたいことなのかもしれない。
「やっぱり、受験勉強で大変なのかなぁ…」
ぽつりと呟くと、なんと返答があった。
「……そーでもないけどぉ〜」
「え、芥川さん、起きてるんですか!?」
「(あ、やべ) ぐーぐー…………」
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