Geniusペア






「たまには息抜きもしたほうがええやろ?」

 そんな忍足の一言で、今日の練習は休みになった。
 いつものコートではなく、二人がきているのはボーリング場である。
 平日の夕方という事もあり、レーンはそれほど埋まってはいない。



「忍足さん、折角ですから勝負しません?」

 ボールを持ってきながらそう言ってきたのは巴のほうだった。
 根っからそういうことが好きらしい。

「ええけど……何を賭けるん?」
「そうですね。1ゲーム終わったときに買ったほうがジュースをおごってもらう、とか」


 巴がそう提案すると、忍足は少し考えるそぶりを見せてから手を横に振る。


「いや、やっぱ巴ちゃんにジュースおごらせるんは悪いからやめとこ」


 その台詞は、大いに巴のカンに触った。


「ちょっと忍足さん、それってどういう意味ですか?」
「どうもこうも、言葉どおりの意味やけど?」
「私じゃ勝てないって思ってるんですか?」
「まあ、ムリとちゃうか?
 フェアちゃうから言うとくけど、俺は強いで?」

 いかにも自信満々。


「どんなに強いって言ったって、
 パーフェクト出せるほど強いわけじゃないでしょ?」


 巴の言葉に、忍足は口の端だけで笑う。

「そんなら、俺がパーフェクト取れたら俺の勝ち、っていう勝負やったらどうや?
 パーフェクト取れへんかったら巴ちゃんの勝ち。
 賭けの報酬は……そうやな、勝ったほうが負けたほうになんでも言う事を聞いてもらう、とか」

 どう考えても忍足に不利な勝負だ。

「それでいいんですか? 忍足さんは」
「ああ、ええよ」
「後で後悔したってしりませんからね?」



 ルールが決まったところで一投目を投げに行く。

「一投目から外しちゃったら話になりませんよー」

 背後から楽しげに巴が声をかけてくる。
 ヤジのつもりなのだろうか。


 集中する。
 最近あんまりやってないけど、まあ大丈夫やろ。
 モノが懸かった勝負には自信がある。


 軽く息を吐くと手を大きく振り上げてボールを放す。

 よし。


 球は狙いどおりの軌跡を描いてピンの元へ到着した。
 小気味良い音を立てて10本のピンが倒れていく。

「はい、まずはストライク」
「まだまだこれからですよ、勝負は!」



 ダブル。
 ターキー。
 フォース。

 ……そして、インナロー。


 はじめはヤジを飛ばしたりして妨害しようとしていた巴だったが、
 次第にプレイそのものに夢中になった。

 9投目。

 若干手元が狂った。
 右端のピンが微妙にぐらつく。
 ……なんとか倒れた。
 巴はほっと息をつく。


 そして、ノーミスのまま最終12投目。
 見ている巴が驚くくらいにあっさりと投げられたそれは正確なコントロールでピンをことごとく倒す。



「気持ちえぇなぁ」


 スコアシートに整然とならんだストライクのマークがなんともいい気分だ。
 この一瞬だけは賭けを抜きにしても達成感がある。


「わーっ!
 すごいですね! 私パーフェクトなんて見たの、初めてです!」


 興奮して巴が忍足に駆け寄る。
 それに、忍足は笑みで応えた。
 少し含みのある笑顔で。



「さ、賭けは俺の勝ちやな、巴ちゃん?」

 その言葉に巴がハッと我に返る。
 どうやら賭けの事はすっかり頭から抜けていたらしい。


「えーと……一体何を……?」

 しばらく逡巡した後、恐る恐る訊いてくる。
 あからさまに警戒しているのが良くわかる。
 基本的に鈍くて天然な彼女にここまで警戒されているというのは喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか。



 少し、考えるふりをしてから答える。

「んー、そうやな。
 ほなまた大会が終わったあとにでも二人きりでどっか遊びにいこか?」

 その言葉に巴の表情がぱっと明るくなった。



「ホントですか?
 じゃあ、私、またボーリングがいいです!
 忍足さん、教えてもらえますか?」




 ……まあ、しばらくはこのお子様テンポに付き合うのも、ええか。







確か想定時は試合に勝って勝負に負ける忍足、って感じだったんですが
フタを開けてみると負けてやってる一枚上手の忍足になっちゃってますね(^^;)。
ま、いっか。
忍足がボーリングが強いという設定は単なる私の実体験です。本気にしないように。
でも彼が一番使いやすかった……パーフェクト楽勝。

  目次