盆も過ぎたというの暦を忘れたのか外の日差しはお構い無しに照りつけている。
残暑、というには些か凶悪なほどに。
朝晩の気温が下がってきたのはまだ幸いと言うべきなのだろう。
そういえばいつのまにかセミの声もミンミンゼミのそれからツクツクボウシへと変わっている。
とは言っても日中の暑さには変わりがないのだけど。
「プールいかない?」
唐突な巴の誘い掛けに、リョーマはゲーム機のコントローラーを握ったまま億劫そうに顔を向ける。
コイツはいつもなんでもいきなりだ。
こちらの都合も気分もお構いなし。
「何、いきなり」
「だから、プール行こうよ、って」
だから、なんで急にそんな話になったのかを聞いてるんだけど。
不機嫌を表すように目を細めるが、巴にはまるで効果なんてない。
「流れるプールあるんだよ」
「だから?」
「スライダーもあるって!」
「興味ない」
「もー、ノリが悪いなぁリョーマくん」
泳ぐのが嫌なのではない。
レジャー施設としてのプールに行くのが嫌なのだ。
基本的にリョーマはレジャースポットに興味がない。
このクソ暑い時にわざわざ人混みの中に行くなんて狂気の沙汰だ。
「空いてるかもよ」
「なんで」
「だって跡部さんが行こうっていうくらいだから」
巴の台詞に、リョーマがぴくりと反応した。
「跡部……?
氷帝のサル山の大将がなんで出てくるのさ」
激しく耳にしたくない人物の名前に、リョーマの眉間のシワが深くなる。
確かに跡部が人混みの多いプールに行くとは考えづらい。
しかし問題はそこではない。
「だから、跡部さんがプール連れてってくれるって」
「…………なんでそれでオレを誘おうとするわけ」
断言してもいい。
100%、歓迎されない。
っていうかこっちから願い下げだ。
あの自信過剰の顔を思い出してただでさえ暑さでイラついているのに不快指数が一気に跳ね上がる。
好きか嫌いかと問われれば間違いなく『嫌い』だ。
巴がヤツと親しくしているという事実が信じられないくらいに。
……いや、違うか。
巴が親しくしているからこんなにも『嫌い』なのだ。
それくらいの事はリョーマにも自覚がある。
それくらいの事も多分わかってない巴も、リョーマと跡部が別に仲良しだとは思っていないだろうに。
「だって、皆で行ったほうが楽しいじゃない」
「皆って……ひょっとして他にも何人か誘ってる?」
「うん」
アッサリと笑顔で答える巴を見て、リョーマは少しだけ、ほんの少しだけ、跡部に同情した。
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