インターバル






 盆も過ぎたというの暦を忘れたのか外の日差しはお構い無しに照りつけている。
 残暑、というには些か凶悪なほどに。
 朝晩の気温は流石に弛んできたものの、主に外で活動している時間帯がこれでは。


 ラケットを振っている時には気にならない汗が動きを止めた途端にじっとりと身体にウェアを張り付かせる。


「あー、暑いですねえ」

 タオルで汗を拭いながら巴がぼやく。

 彼女の長い髪が汗で湿って顔や首筋にまとわりついている様は見ているだけで更に暑さが増す。
 払い除けてやろうかと指先を伸ばしかけて、やめた。
 代わりによく冷えたスポーツドリンクのボトルを投げてやる。


「ほれ。水分補給しとかねえと脱水起こすぞ」
「あ、ありがとうございます、跡部さん」

 ボトルを受けとると、旨そうに喉をならしてそれを飲む。
 同時に跡部が先程気になっていた髪を片手でかきあげている。


「にしてもいつまでも暑いですよねー」
「まあ暑いから学校が休みなんだからな。当然っちゃ当然だ」
「まあ、そうなんですけどね。こう暑いと頭から水でもかぶりたくなりますよ」


 ため息をつく巴に、ふと思いたって跡部は口を開く。



「じゃあそうするか」



「へ?」

 きょとんとした顔で問い返してくる。

「頭から水、かぶりたいんだろ」
「……滝にでも打たれに行くってことですか」
「やりたいのかお前」
「いやまさか!
 ……ってこともないですね。ちょっとやりたいかも」



 ったくこの女。



 生憎巴の希望はさておき跡部にはそんな気はまったくない。

「残念ながらそうじゃねえ。
 うちの系列のプールにでも行くか、と行ってるんだ」


 巴の目が大きく見開かれる。
 まだコイツはこの程度の些細なことで一々新鮮に驚いて見せる。


「プールって泳ぐやつですよね」
「当たり前だ」
「ビニールプールでなくですよね」
「ビニールプールで泳げるのかお前は」


 一呼吸おいてからため息とも感嘆ともとれる声が巴の口から洩れる。


「ひゃ〜。……流れるプールとかあったりします?」
「ある」
「もしかしてスライダーも?」
「当然だ」
「皆も誘ってもいいですか?」
「…………好きにしろ」



 最後の回答だけ、微妙によどんだことには気付く由もなく、嬉しそうにはしゃぐ巴に、跡部は気付かれないように苦笑交じりの溜息を吐いた。



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続くのです。
しかし跡部ってビニールプール知らなくても不思議ないよなぁ。

2009.9.4

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