ワケがわかんねぇ。 京四郎の野郎はいきなり怒り狂ってどっかにいっちまうし、竜崎に聞いても、京四郎の口から聞けの一点張り。 それが出来るんならテメェになんか聞かねぇっつうの。 ―――こん時は、わかんなかったんだ。 京四郎も、竜崎のババアも、いきなりの事でそれぞれいっぱいいっぱいで俺にかまってる余裕なんか無かった、て事が。 ま、ガキだったからな――― ただひとつ、わかった事。 俺はどうやら京四郎に勝ち逃げされたらしい。 晴天の霹靂の京四郎の退部から数日、テニス部は随分と静かだった。 いつも対になって騒いでいた騒動の大元の片割れが消えた為だ。 南次郎も、今までのようにふざけるよりは不機嫌にふさぎ込んでいる。 かと言って、じゃあテニス部以外、部活から離れたところの空気はいつも通りなのかというとそれもない。 南次郎にさらに輪をかけて、不機嫌どころか暴力的なオーラを放っている京四郎のお陰で不幸にも同じクラスの人間は重苦しい空気を味わう羽目になっている。 たった一人の人間の与える影響力としては大したものだと言えよう。 当然のように、最初にキレたのは南次郎だった。 「京四郎! 話がある」 京四郎の席の前で仁王立ちになると、そう言い放つ。 自席で本を見ていた京四郎がは、南次郎が癇癪を起こす直前の、そのギリギリのタイミングでゆっくりと顔をあげる。 「俺はない」 それだけいうと、また視線を本に戻す。 何も読んでいないくせに。 イラついているときに、視線をやるところがないから視線を留めるための小道具として本を使ってるだけだ。 昔からのコイツの習性だ。 「俺はあるからいいんだよ! いいから来い!」 「……話があるから、と呼び出していいのは告白にきた可愛い女の子だけだろ、普通は……」 本を取り上げられ、文句をいいながらもようやく京四郎が腰をあげた。 南次郎が大声をあげたせいか、はたまた元々目立つ二人のせいか、気がつくとすっかり周囲の注目を集めている。 京四郎の言う『告白にきた可愛い女の子』ではないが、そうそうそこらへんでは話しにくい。 とは言っても、それに関して南次郎が逡巡する事はまったくなかった。 二人が話をする場所なんて、ひとつしかない。 「コート、行くぞ」 コート。当然テニスコートだ。 一瞬、何事か言いかけた京四郎だったが、結局また口を噤み、黙って視線を落とすと南次郎について歩き出した。 コートまでの少しの距離、言葉どころか視線もまったく交わすことなく。 |