「どうかした?」 窓の外に目をやる巴に、鳥取が尋ねる。 「え、いえ、ここからじゃ見えないのかな、って思って」 「何がだよ」 「……ああ、花火か?」 みなまで言う前に跡部が言葉を継ぐ。 巴は黙って頷いた。 青春台でクリスマスの夜に上げられる花火。 夏の花火大会ほど派手ではなかったが、鮮烈に印象に残っている。 「バルコニーに出れば見られない事はないと思うが……出てみるか」 「はい!」 「ウス」 「あ、ありがとうございます」 樺地が渡してくれた上着を羽織るとバルコニーに出る。 外に出た途端に襲いかかる、突き刺すような冷気が室内の暖かさを物語った。 「青春台は……あっちの方やな」 「あ、あれか?」 向日の指差した方角に目をやる。 幸い高い建築はあまりないが、いかんせん遠い。 「ここから見ると、小さいですねー」 仕方ないとは思いつつも、思わずそんな言葉が口からもれる。 そんな巴の様子を見ていた跡部が携帯を取り出し何事か告げた。 と、突然背後が真っ暗になる。 「えっ!?」 屋敷内の照明がすべて消えた。 停電かと思ったが、バルコニーから見下ろせる街並みは灯りがともったままだ。 跡部の方を見ると、微かに笑みを浮かべている。 「これで少しは、見やすいだろう」 「……はい、ありがとうございます!」 遠くに見える花火はやはり変わらず小さい。 だけど、去年見たときと同じように、美しい光は巴の心の中にしっかりとその残像を焼き付けた。 やがて、花火がすべて打ち上げ終わった。 「あー、さみぃ。中に戻ろうぜ」 「雪が降ってもおかしくないような寒さですからね」 寒さしのぎなのか飛び跳ねながら言う向日に、鳳が苦笑しながら言う。 あまり打ち上げの時間は長くはないとは言えこの時期の外はやはり厳しい。 「とは言っても、今年は雪は降らねえだろ」 そう言いながら宍戸が空を見上げる。 雲ひとつないこの空では確かにホワイトクリスマスは望めない。 しかし、同じように空を見上げた巴が嬉しそうに言う。 「でも、こんなキレイな星空だったら、雪の代わりに星が降ってきてもおかしくない気がしますね」 邸内の灯りがすべて消えているので、星がよく見える。 都会でもこんなに星が見られるなんて思わなかった。 ホワイトクリスマスより、ずっといい。 「さ、早く中に入っちゃいましょう!」 小走りに邸内へ入る。 自分の発した言葉が照れくさかったのか。 「おい、慣れない格好してるんだから転ぶなよ」 慌てたように宍戸が言う。 振り返ると、巴は軽く唇をとがらせた。 「大丈夫ですよ。靴のカカトも高くないし。 ……こういう服に合わせた靴ってカカトが高いもんだと思ってたんだけど、おかげで楽です」 当然靴もここで用意されていたものである。 「こんなお遊びで足首でも痛めたら洒落にならないだろうが」 そう言うところを見ると跡部が指示したのだろう。 いかにもらしい行動だ。 「そうやんなあ。 カカトが高い靴やったら岳人なんか見上げな巴の顔見えへんもんな」 「なっ、そこまで小さくねえ! クソクソ、俺だってまだ伸びてるんだからな!」 忍足に揶揄された向日が巴に指を突きつける。 確かにこの一年で向日の身長はある程度伸びてはいるのだが、巴を追い抜くほどには至っていない。 「いいか巴、俺がお前の身長抜くまではヒール禁止!」 「えー。私だってまだ成長期なのに」 「えーじゃねえ! 絶対だからな!」 その場にいた数人は、それでは巴は永遠にカカトのある靴をはけないのではないかと失礼な事を考えたが、言わぬが華という事にしておいた。 |