はしゃいでいる時は時計の回りが早い。 気がつけば、もう帰宅しなければならない時間だ。 気がついていたけれど、気がついていない振りをしたかった巴の代わりに、鳥取が口火をきる。 「あ、もうこんな時間。……そろそろ帰らなきゃね」 残念そうに、そう言う。 こういうあたり、やはり鳥取は自分よりもずっと大人だ。 久しぶりに会ってもやはり、そう思う。 テニスだけでなくこういう点も、早く鳥取に追いつきたいのだが、どうも此方の方は上手くいかない。 「鳥取さん……」 「赤月さん、次に会うのはきっとJr.選抜の時だね。 アナタと戦えるの、楽しみにしてる」 「はい、私もです。絶対に負けませんから!」 力強い巴の返事に鳥取は満足そうに頷いた。 そう、次に会う時までにもっともっと強くなる。 まだまだ巴には追い着かせない。 そう決意して。 行きは自力でここまできた巴だが、帰りは好意に甘えて車に乗り込んだ。 服装は来た時の姿だ。 まるで、魔法がとけたみたいだ。 ドアを閉める直前、不意に巴に声がかけられる。 「巴!」 駆け寄って来たのは滋郎。 普段が普段だけにこの時間、もうどこかで眠りこんでいてもおかしくないと思っていたが、案外元気である。 ドアに手をかけ、既に座席に座っている巴を見下ろすとこんな事を聞いた。 「今日、楽しかった?」 一瞬、呆気にとられたような顔を見せた巴だったが、すぐに満面の笑みで答える。 「はい、最高のクリスマスでした」 「そ、なら、良かった。おやすみ」 その答えを聞いて滋郎もまた安心したような笑顔になる。 うん、大丈夫、夢じゃない。 これは幸せな現実だ。 「おやすみなさい」 そして、ドアが閉まる。 巴の乗った車が走り出す。 テールランプが見えなくなるまで見送った後、滋郎も自宅に帰るべく踵を返す。 特別な日は、これでおしまい。 おやすみなさい。また今度。 ―― Happy merry christmas! ―― |