今まではいたことがないくらい裾の長いスカート。 照明が当たるとほのかに色彩を変えるドレス。 肌に生地が触れる感覚は巴にさえこれが高級品だと理解させる。 普段下ろしっぱなしの髪までセットされ、うなじのあたりがスカスカする。 巴だって女の子だ。 嬉しくないことはない。 しかしここまで完璧にドレスアップさせられてしまうと皆のいる部屋に入るのに、少し躊躇する。 気恥ずかしい。 これだったら一人平服の方がマシだったかもしれないくらいに。 ええい、いつまでも扉の前で考えていてもしょうがない、と勢いを付けて取っ手に手をかけようとした瞬間、向こう側に扉が開いた。 危うくつんのめりそうになった身体が支えられ、呆れた声が頭上から届く。 「そんな格好をしてる時くらいそれらしい所作ができないのか?」 日吉だ。 「う、だって、扉を開けようとしたら日吉さんが」 「どれだけ気合入れて入ろうとしたんだよ。……」 巴の体制をたてなおして、さらに何か言おうとしたが、ふいに口をつぐんで視線を逸らし、巴を伴って踵を返す。 「あれ? どこかに行くんじゃなかったんですか?」 「お前を迎えに行くよう跡部さんに言われただけだ。もう外に出る必要はない」 そう言うと、ふいに視線を巴に戻し、微かに笑った。 「まあ、似合ってるんじゃないか」 その言葉に、巴は少し安心して日吉の後について皆の元に戻っていった。 「へー、……馬子にも衣装」 「宍戸さん! 巴さん、気にしないで。すごくきれいだから」 「うん、似合ってる」 「えへへ、ありがとうございます!」 たとえお世辞でも褒められれば悪い気はしない。 しまりの無い笑顔を見せる。 「似合ってるのは当然だ。 俺様がわざわざ見立ててやったんだからな」 と、そんな跡部の台詞が背後から聞こえたが、そこにいつも入る同意の相槌がない。 そういえば、広い室内といえどあの大きな身体はどこにいても目に入る筈なのに。 思わずあたりを見渡す。 やはり、樺地の姿は、ない。 「あの……樺地さんは?」 「ああ、樺地なら今むか……」 「バカジロー!」 巴の発した疑問に芥川が何か言おうとした瞬間、宍戸が素晴らしいスピードで芥川の口を塞ぐ。 なので彼の後半の台詞は聞き取れなかった。 「? 向日さんは、ここにいますもんね」 何を隠しているのか。 問い詰めようとした巴だったがその必要もなく答えの方から巴の元に飛び込んできた。 「赤月さん!」 かけられた声に、振り返る。 もうずっと聞いていなかった声。 そして視界に入った姿を認めると巴もそちらへ駆け寄った。 小柄な身体をやはり巴同様に華やかな衣装に身を包んでいたが、見間違うはずは無い。 今、先導してきたらしい樺地の隣で、嬉しそうにこちらを見ている懐かしい顔。 「……鳥取さんっ! どうして……?」 思わず手を取ると、鳥取もまたうれしそうに笑う。 夏の全国大会以来だ。 もっとも、鳥取属する愛知代表は青学と当たる前に敗退してしまったので再戦は叶わなかったのだけれど。 「年末の帰省のついでに呼んだまでだ」 跡部の発した言葉は果たして耳に入っているのかどうか。 女子二人ははしゃぎにはしゃいでいる。 「ゴメンね、黙ってて。 せっかくだから秘密にして驚かそうって」 「驚きましたよ! 鳥取さんに会えるなんて思ってなかったんで、嬉しいですっ!」 酷く嬉しそうな巴の顔を見て、滝は満足そうな笑みをそっと浮かべた。 それが自分の力で引き出せたものでないことに少し悔しい思いを抱かないではないが。 今はここにいる全員より鳥取一人の方が巴を喜ばせる事ができる。 とりあえず、今日のところはそれでいいか、と思いつつ。 |