その日は快晴だった。 なので日中は暖かかったがやはり日が暮れ始めるとコートを着ていても少し肌寒い。 もっとも、故郷岐阜の寒さには敵うべくもないけれど。 もうこっちに来てからずいぶんになるから身体が適応しはじめちゃってるのかも知れない。 そんな事をつれづれと考えていた巴だったがそんなものは跡部邸に近づくにつれ、吹っ飛んだ。 「あ、来た来た」 「メリークリスマース!」 「遅ぇぞ巴」 巴の姿を認めた面々が口々に声をかけてくる。 「何呆けてんだ赤月」 宍戸が呆然としている巴に呼びかけると、我にかえった巴がなにごとか呟いた。 よく聞いてみると、こうである。 「……ここは、国内ですか?」 「あ? お前がパスポート持ってここに入ったんじゃなきゃ日本だろ」 「まあ、そう思う気持ちもわからんでもないけどなあ」 呆れたように言う向日の横で忍足が苦笑する。 広大な敷地、大きな邸宅。 豪華な調度品。 さらに邸内には使用人ときた。 まず一般の生活を送っていると縁のないものばかりだ。 長い間跡部と付き合っていると感覚が麻痺してしまいがちだが、初めてならば驚いて当然だ。 と、いうか来た事がなかったらしいというのも驚きだが。 が、忍足の考えは半分ハズレだった。 「なに他人事みたいに言ってるんですか! 跡部さんの家が大きいのは確かにビックリしましたがある程度予想済みですよ。 そんなことより、なんで、皆さん盛装なんですか!」 指摘されてやっと自分の格好を顧みる。 巴が着ていたのは一般的なワンピースだったが彼女を出迎えた面々はフォーマルだ。 言われるのも無理はない。 「跡部が正装以外は認めん、て言うからしゃあないやん」 「忍足さんの思うままなのがイヤだったんでしょう」 間接的原因は忍足ではないか、という意味を言外に含ませて日吉が言うが、忍足は気づかぬ振りをして聞き流した。 「忘年会みたいなもんだ、なんて言葉にだまされたー」 「騙してねえ。 このメンツだ。似たようなもんだろうが」 「忘年会は盛装しません! みんな盛装だって事前に聞いてたら私だって……」 「服がないと言って、来ないでしょ」 「……う」 滝の言葉に巴が押し黙る。 図星だ。さすが。 「居候生活のお前がんなもん持ってる訳ねえのはわかってる。だから」 こっちで勝手に用意した、と言って跡部が片手を上げる。 居候じゃなくても普通の中学生はフォーマルなんて持ってない、と突っ込みを入れる間もなく巴は使用人に連れ去られていった。 「頑張れ〜」 暢気な慈郎の声が背中に届いたが、なんの励ましにもならない。 「……さて、こっちはいいとしてあとは……」 跡部が呟いた時、タイミングよく携帯が鳴り響いた。 片手で携帯を開き、相手と何事か会話を交わすと満足げな笑みを見せて、携帯を閉じた。 「よし。こっちもOKだ」 「ウス」 心得たもので跡部が全てを言うまでも無く樺地がその場をそっと去っていった。 |