「桃城くん」
昼休み、購買で大量のパンを買い込み教室に戻る途中、かけられた声に振り向くと紙パックのジュースを差し出された。
相手は、クラスの女子だ。
「あ?」
「これ、あげる。
間違えて買っちゃったんだけど苦いから私、これ苦手なんだ」
見ると、100%のグレープフルーツジュースだ。
「じゃ、金払うよ」
「ううん、いいよ。引き取ってくれるだけでいいし」
「そっか? 悪ぃな」
そういうと、笑顔でジュースを受け取って早速ストローを指す。
丁度喉が渇いていたのでいいタイミングだった。
じゃあね、と手を振ってクラスメイトは教室に戻っていく。
自分も同じ方向に向かおうとすると、また反対側から声をかけられた。
「桃ちゃん部長!」
こんな呼び方をするのは、一人しかいない。
巴だ。
「よう、今日はお前も購買か?」
「いや違うんですけどね。
桃ちゃん部長の姿が見えたから、ちょっとお願いがありまして」
「お願い?」
「はい。付き合ってもらえませんか?」
「別にかまわねえけど……今週か?」
部活とは別に、よく巴と桃城はテニススクールで練習をすることがある。
試合でペアを組むことが多いので不自然な話ではない。
てっきりそうかと思った桃城だったが、巴の言葉は予想外の方向に飛んでいた。
「違いますよ。男女交際の方です」
「…………は?」
今、なんと?
「モエりん? 先行ってるよ〜」
「あ、待って那美ちゃん!
じゃあ、桃ちゃん部長、返事はいつでもいいですから!」
頭が真っ白になった桃城を置いて、あっさりと巴が退場する。
あまりにもあっさりと。
あれ、今聞いたのって空耳か?
突然すぎる展開についていけずに呆然と巴が去った方向を見ていると、通りすがりの池田にいぶかしげな視線を向けられた。
「桃城、何廊下の真ん中でぼーっとしてんだ?
昼休み終っちまうぞ」
「あ、おう」
返事をしたその拍子に右手に持っていたジュースの紙パックを思い切り握ってしまい、まだ殆ど減っていなかった中身がボタボタと溢れ出す。
「おわっ!」
「……本当になにやってんだ? 桃城」
次ページへ
|