「アンタさ、立海の切原さんと、付き合ってるの?」
きっかけは、朋香のそんな言葉だった。 昼休みにいきなり言われたその言葉に、口に含んでいたお茶を吹きそうになる。
「な、何を急に……」
吹くのは何とか堪えたが、気管に入って盛大にむせ返った。
「だって、しょっちゅう会ってるじゃない、アンタ達。 神奈川って別にそんなに近くないでしょ」 「会ってるったって……一緒にお互いのテニスクラブで練習してるだけだよ?」
付き合っているとかそういうのではない。多分。 その巴の答えに満足したのかしないのか、朋香はさらにもう一つ、質問をした。
「じゃ、アンタは? アンタ自身は切原さんの事、どう思ってるの?」
……これがつい先日の話である。 そして今日は休日であり、やはり巴は切原とスクールに向かっている。
『そんなの、考えた事もないからよくわからない』
それが、昨日巴が返した言葉だった。 それを聞いた朋香には『まあ、アンタには早すぎる質問だったわね』、と一刀両断された訳なのであるが。
わからない。 そんな風には思ってない筈、なのだが。
「……おい、おい!」 「へ? あ、な、なんですか?」
考え事にいつのまにか没頭していたらしい。 顔を上げると不機嫌そうな顔の切原と目が合う。
「何ぼーっとしてんだよ?」
切原が顔を覗きこむ。 別に不審な行動ではない。 が。
瞬間。 心臓が跳ねた。
え。 ナニ、これ。
「おい、なんか顔も赤くねえか? 熱はないのか? 風邪なら無理すんなよ」
巴の動揺には気づかず、切原が巴の額に手を当てる。 一気に二度ほど体温があがった気がして慌てて飛びのいた。
「だ、大丈夫です! なんともないです! さ、練習始めましょう!」
朋ちゃんが変な事言うから妙に意識しちゃっただけ。それだけの筈。 だからすぐに普通に戻れる。
大丈夫、大丈夫。
怪訝な表情の切原の視線から逃れるように、手に取ったラケットを大きく振った。 心の動揺を振り払うように。
『アンタ自身は切原さんの事、どう思ってるの?』
次ページへ
|