恋をしたくないわけじゃない。 女の子なんだし、そういうのに興味がないなんて言ったらウソになる。 四六時中騒いでいる朋香を見ると呆れる反面、少しだけ羨ましくもある。 私も誰かを好きになったらそんな風に色んな事に毎日ドキドキするんだろうな、と思う。 けど、あの人はダメだ。 絶対ダメ。 それだけは。 あの人に恋なんてしたくない。 けれど、そう考えている時点で、きっともう、手遅れだったんだ。 携帯電話を閉じると、巴は一つため息をついた。 机の引き出しを開けて、一番手前にしまってある小さな箱を取り出す。 箱の中身はペンダント。 普段巴がおしゃれでつけているようなものとは質が違うことは素人でも簡単にわかる。 似合う、と言われて贈られたそれを巴はまだ一度も身に付けたことがない。 蛍光灯の光を反射してきらきら光るそれをひとしきり眺めると、再び巴はため息をつき、箱の中にしまいこんだ。 大丈夫。 まだ、きっとやり直せる。 けれどもまだ今はちょっと、心の整理が必要なだけだ。 携帯に届いたメールを見て、跡部は眉をひそめた。 巴からのメール。 その内容は不可解としかいいようが無い。 しばらく週末に一緒に練習ができない。 それ自体はまあいい。誰にでも都合ってものはある。 しかし、その理由がまったく書かれてないのはどういうことだ。 真意を問いただすべく電話をしても、留守電に切り替わるばかりで繋がらない。 元々跡部はそれほど気長な方ではない。 イライラとしながらもリダイアルすることしばし。 ようやく電話が繋がった時には図らずも不機嫌な声音になっていた事は否めない。 「さっきのメール、どういうことだ?」 『……どういうもこういうも、そのまんまですよ』 「理由が書いてねえぞ」 『…………』 今日の巴はおかしい。 別に事情があるならそれはそれでかまわない。 それを全て話せなんてことを言うつもりも無い。 けれど、いつもの巴なら話せない事はそうとはっきり言う。 こんな妙な沈黙は流れない。 「巴、お前どうかしたのか」 『…………』 なおも沈黙は続く。 跡部が長期戦を覚悟した時、携帯の向こうから巴の声が聞こえた。 『今だけです。今だけですからちょっとだけ待ってください』 「は?」 『それじゃ、失礼します!』 ツー、ツー、ツー。 切れた。 訳がわからない。 腹立ち紛れに携帯を壁に投げつけそうになり、すんでのところで思いとどまってそれを机の上に放り投げると、空いた手で髪を乱暴にかきあげた。 「なんだってんだ、一体……」 |