「あれ、リョーマくんと隼人は?」
「打ち合いするって言ってたからコートじゃないの」
夕食の支度も整ったというのに二人の姿がない。
外はもう暗いというのに。
「ま、あの二人のこったから夢中になって時間も忘れてんだろ」
言いながらテーブルの上の唐揚げに手を伸ばした武の手を秀一郎が軽くはたく。
「けどそろそろ呼んでこないとな。……あっ!」
「そうそう。隙ありぃ!」
横からひょい、と英二が唐揚げを口に放り込む。
確かに、おとなしくまっていては夕食のおかずは半減しているかもしれない。
「じゃ、私呼んでくるね」
「ボクも行こうか?」
「一人でいいよ。
周助お兄ちゃんはおかず守っといて」
そう言うとエプロンを手早く外し、外に出る。
戸を開けた途端吹き込んだ外気の冷たい空気に身体がすくむ。
数日前よりは少し寒さは和らいだが、それでも冬の夜の空気は刺すようだ。
寒さをごまかす為もあって巴は駆け足でコートに向かう。
「あー! クソ!」
「まだまだだね」
「ぬかせ!」
隼人とリョーマの声だ。
兄達の予想どおり、まだ打ち合いを続けている。
とっくに辺りは暗く、テニスボールも見えにくいだろうにそんな事は意にも介さずただラリーに熱中している。
冷気どころか二人とも汗だくだ。
近くに寄れば湯気だって見えるかもしれない。
少しうらやましい。
この二人はいつもそうだ。
普段反発しあっているけど、ことテニスに関しては誰より気が合うんじゃないだろうか。
その中に巴は入れない。
それは巴が女の子だからかもしれないし、また別の理由かもしれない。
あんまり熱中してるので少し躊躇われたがずっと二人を見ていてもラリーが終わるようには見えないし、第一見ているだけの巴は寒い。
「二人ともー、もうご飯だよー」
ネット際まで近寄って声をかけると、さすがの二人も気が付いてラケットを下ろす。
「もうそんな時間?」
「真っ暗なのみたら分かるでしょ」
「うわ、いつの間に」
流れる汗を腕で拭いながら今初めて気がついたように隼人が言う。
「ニブすぎ」
「なんだとテメエ!」
「いい加減にしなよ。はいご飯ご飯」
歩きだした時、隼人が急に立ち止まった。
「どうかした?」
「いや、覚えてるうちに渡しとこうと思って」
そう言うと小さな包みを巴とリョーマに渡す。
「何?」
「昨日、誕生日だったんだろ」
にっと笑う。
「ま、金あんまないし何がいいかなんてわかんねえからストリングだけど」
隼人の言葉にリョーマと巴は顔を見合わせて笑う。
「……何だよ」
「ううん、みんな考える事はおんなじだなって」
「ま、いいんじゃない」
前日兄達からもらった誕生日プレゼントもまたテニス用具だった事を知らない隼人は釈然としない表情を見せるが、まあいいか、とすぐに笑顔を見せた。
「さ、メシメシ。
腹減った〜!」
「お前ってホント遠慮ないよね」
いつものようにリョーマがいれる茶々に隼人が一々反応する。
歩きながら、ふと気が付いて巴は隼人の腕を引いた。
「言い忘れてた。
メリークリスマス!」
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