さくらとアイリスはただ、喜んでいた。 すみれは無関心を装っていた。 紅蘭は、何も言わなかった。 そして。 「……結局、マリアはあたいにはなんにも言ってくれないんだな。前のときも、そして今度も」 しばらくの沈黙の後にカンナが発した言葉は、それだった。 「……ごめんなさい」 「別に謝ってもらいたいわけじゃないよ。 たださ、あたいはそんなに頼りにならないかい?」 「そんなわけじゃ……!」 狼狽したマリアだったが、そこでカンナはついに吹き出した。 「ははは、このくらいで勘弁しておいてやるよ。 たださ、あたいはマリアが一人で悩んでるよりも、なにか言ってほしいって、それだけはわかってくれよな」 カンナの言葉が、とてもありがたかった。 「ええ、ありがとう、カンナ」 「まあ、マリアにはあたいよりも隊長の方がいいかもしれないけどな?」 「…………っ! カンナ!」 「結局、奴はどういう素性だったんだ?」 米田の質問に、報告書を手にした加山が答える。 「マリアさんがN.Y.にいたときの知人の弟、だったそうです。 もっとも、彼自身はマリアさんとは面識はなかったようですが。 当人は藤枝副指令がマリアさんのスカウトに行った時に事件に巻き込まれ、死亡したそうですが、おそらくそれをきっかけにしてマリアさんの霊力を知ったようです。 彼自身も若干の霊力を持っていたので、その力の大きさと、その利用価値に気がついたのでしょう。 幸いというかマリアさんはその後すぐに帝都に渡っていたので消息がつかめなかったようですが……」 「マリアは一番しっかりしているように見えて、一番精神面が脆いからな。 つけこむには絶好の相手だったというわけだ」 米田が、ため息をつく。 加山もつられて苦笑する。 「しかし指令、それももう大丈夫でしょう。 彼女は、心配はないと思われます」 「ああ、そうだな」 窓の外に、目をやる。 「今ごろはもう着いたころでしょうかね……」 ゆっくりと首からロケットをはずし、それを墓石にかける。 「いいのかい? 大切なものだったんだろう?」 大神の言葉に、マリアはゆっくりと頭を振る。 「ええ、いいんです。 本当に大切なものは、形ではありませんでしたから」 ロシアのユーリー隊長の墓石である。 大神が海軍に赴任するまでの間で休暇をもらい、二人はこの地に赴いた。 マリアも祖国の土を踏むのはアメリカに亡命して以来である。 墓標に背を向け、大神のほうに向き直る。 「隊長、こんなとこまでお付き合いいただき、ありがとうございます」 「いや、俺もマリアの故郷を見てみたかったからね」 「ここから、もう一度はじめてみたかったんです」 「はじめる?」 ひとつ、息を吸う。 「隊長、隊長のことが、好きです。 これからも、私は弱い自分に負けてしまうかもしれません。 けれど、……やはり、ここから始めようと思います」 大神は少し照れたように笑うと、マリアをそっと抱き寄せた。 マリアは、自分より小さな大神の胸がずっと広くて大きい事を感じていた。 自分の生の価値などわからない。 けれど、今までもこれからも、自分は一人で生きているのではないのだから。 先のわからない未来におびえて、前に進むことをやめてしまわないように ---happy birthday!--- |