「で、どうして君はここにいるんだい? 龍麻」 如月骨董品店である。 京一と別れた龍麻はその足でここに向かっていた。 「……どうせここに来れば誰かいると思って……」 「うちの店を村の集会所のように言うのはやめてくれないか。壬生、それポン」 しかし、そう言っている如月は壬生、村雨、御門(京一がいないので数あわせに連れてこられた)との四人で麻雀の真っ最中である。 全く説得力がない。 「だいたい、蓬莱寺なんかのために先生がわざわざおしゃれまでしてるってぇのが気にいらねぇな。リーチ!」 「だから、これはそんなんじゃなくって高見沢が……」 「もしも本当に嫌なのなら、一度家に帰れば良かっただけの話だね」 静かな壬生の言葉に、龍麻は言葉を詰まらせた。 確かに、それが全く頭に浮かばなかったと言えばウソになる。 だけど。 「期待、しすぎたんだ……」 「は?」 「京一が、優しかったから、僕は期待してしまったんだ。 親友だって言ってくれて、それだけで満足だったはずなのに、病室でも『そばにいてくれ』なんて言って彼を困らせた。 親友の枠以上を僕は求めてしまった。身の程も知らずに……。馬鹿だな」 そう言って自嘲気味に笑う龍麻の顔は哀しい。 「フ、俗な話ですね。龍麻さんともあろう方も、ご自分の事になると周りが目に入らなくなるらしい」 「……どういう意味だ? 御門」 「さあ、私の言葉の意味も、また意味などないのかも、それを決めるのは貴方自身です。 ただ、今私が言えることは退院したばかりの身は早く家に戻った方がいいのではないかということだけですね」 いつもながら御門の言葉は真意が読みにくい。 しかし『帰れ』と言われていることだけは確かなようだ。 「わかった。体調を崩してみんなに迷惑をかけるわけにはいかないしね。如月、邪魔した」 「いや、気にしないでくれ。僕はいつでも君を歓迎するよ」 如月の言葉に、少し笑みを返すと龍麻は骨董品店を後にした。 龍麻が骨董品店の表扉を閉めると、中に残った面子は麻雀を再開する。 「……全く、人の気もしらねぇで」 「そういう方面での鈍さにかけては最悪の二人ですね。ロン」 「げっ! 満貫……!?」 「皆さん、気もそぞろな状態では何をやっても勝てるわけがありませんよ」 誰だよ、こんな奴を連れてきたのは……と、ひとりごちる村雨だったが、当然御門を連れてきたのは彼である。 「……『そばにいてくれ』、か……それで奴さん、先生が退院するまでほとんど病院に詰めっぱなしだったのか」 試験休みに重なったため学校をサボったわけではないが、この五日間、京一がほとんど家にも帰らず龍麻の側を離れなかった事実はここにいる全員が知っている。 「……いや。龍麻の言葉は関係ないよ。彼は、龍麻の意識が戻る前からずっとつきっきりだっんだから」 「あれを優しいから、と解釈する龍麻には感嘆する」 しかし、当然誰もそれを龍麻には指摘しない。 「それにしても先生はなんでここに来るんだ? 俺の所なんて来たことがないぜ」 「浜離宮にもたまに来ますよ。落ちつくと言って。さすがの龍麻さんも貞操の危険を無意識にせよ避ける勘ぐらいはあるのでしょう」 「……御門、そりゃどういう意味だ」 「さあ?」 「……悪いが今日は帰らせて貰うよ」 今まで無言だった壬生が急に立ち上がった。そのまま黙々と帰り支度をはじめる。 「なんだよ急に」 「……仕事、だよ」 「壬生、私怨は仕事とは言わないんじゃないか?」 「……とかいいながらなんでお前も本日閉店の札つけてんだよ……」 「龍麻は僕の半身だ。その半身を傷つけることは許さない」 「……まあ、な」 「別に村雨に来いとは言っていない」 「冷たいねぇ」 「いささか過保護に過ぎる気もしますがね。……ああ、自己満足というやつですか……」 だけど、御門も止めなかった。 次頁へ続く・・・(^^;) |