背中が、熱い。 血が流れつづけているのがわかる。 不思議と痛みは感じない。 しかし、全身から確実に力が抜けていくのは感じる。 まだ力の残るうちに、締めた腕が緩んでしまわぬうちに。 早く。 早く。 早く。 早く、……俺ごと法眼を撃ってくれ。 九条の拘束から逃れようと法眼が必死に手足を動かそうとするが、 完璧に関節を抑えた腕は離れようとしない。 「早くしろ、飛鳥。 俺も、そう長くはもたない…」 もう、自分の命はここで尽きてしまうだろう。 他人事のようにそう感じた。 法眼に命をくれてやったのではない。 飛鳥に……郷の為に、この命を使うだけだ。 血があまりに多く流れすぎてしまったためだろうか。 視界が霞む。 飛鳥の姿が、見えない。 どんな表情をしてこちらを見ているのか。見ることが叶わない。 飛鳥、 心残りがないわけじゃないんだぜ。 やり残したことも、やりたいことだってまだ山程ある。 ただ、郷だけは、お前がいるから大丈夫だと思えるんだ。 飛鳥、 お前には、借りばかりだな。 また、借りをつくってしまう。 飛鳥、 最後の最後でこんな重荷を背負わせてしまう事を、許してくれとはいえない。 俺としては、本望だが、お前は長く苦しむ事になるだろう。 だけど、それでも。 飛鳥が何事か叫んだ。 しかし、何を言っているのか聞き取る事が出来ない。 聴力も失われつつあるのだろうか。 それとも、飛鳥の叫び自体が意味のない叫びだったのだろうか。 そんな事を思った刹那、胸に前方からの衝撃が走る。 飛鳥が験力を放ったのだ。 法眼に致命的な打撃を与えた事がわかる。 飛鳥、 お前の顔を見ることが出来なくて、良かったと思う。 怒っているのか、それとも、……泣いているのか。 どちらにせよ、黄泉路への手土産にしてはそれは重過ぎる。 やっぱり俺は卑怯者だ。 飛鳥、 再び、転生を得る事が出来るのならば、 もう一度、お前を探しだそう。 そして、今生の罪を、償おう。 ……願わくば、 飛鳥に与えられる痛みが少しでも軽くあるように。 〜終〜 戻る |