<試合前>
あれ? キミって、もう試合終わったんだ。 見たかったな、キミの試合。 みっともなく負けたんでしょ? あー、見たかったな、キミの負けるとこ。
俺の試合はまだっスよ! 冗談でも負けたなんていわないでください!
ああ、なんだ。じゃあ、これから負けるんだ?
い、伊武さんっ!
冗談だと思う? そんな情けない顔してて勝てるわけないだろ? キミなんかが緊張するなんて、俺に言わせれば10年早いね。ナマイキなんだよ! あれこれ考えたって、キミにできることなんてたかがしれてるんだよ。 考えても無駄なことなら考えないほうがいいんじゃないの? 特にキミなんかの場合はさぁ! 少しは自信を持ったら? キミだって選抜に選ばれた1人なんだからさぁ。 戦う前にあれこれ考えるのはキミのスタイルじゃないだろ? 考えなしで向かってくるキミのほうが、対戦相手は怖いんじゃないかな。 もし対戦相手が俺だったら、そう思うよ。無茶するキミのほうが怖いってさ。
伊武さんが……俺を?
もし対戦するときになってもいまみたいな顔していたら……。 遠慮なく勝たせてもらうから。 緊張してるキミのほうが俺には都合がいいからね。 そのときは、恨まないでよ。
……簡単には勝たせないっスよ。 たとえ伊武さん相手でも、俺、遠慮しないっス!
なーんだ。緊張もなくなっちゃったのか。ツマラナイなぁ……。 もうすぐ試合が始まるみたいだ。 俺は勝つつもりだけど、キミも頑張りなよ。
うっす! 心配かけてすみませんでした!
<対戦前>
ここまでキミが勝ち残るなんてさ、ずいぶんと組み合わせに恵まれたんだね。 ……ま、キミも強くなったってことかなぁ。
伊武さんと戦うまで負けられなかったんス。
残念だねー。隼人。 悪いけど、勝たせてもらうから。
そんなのわからねえっスよ! 勝つのは……俺っス!
負ける気ないんだ。ずいぶん自信があるんだね。 でも、ナマイキだって言わないよ。 ……いまのキミには本当にそれだけの実力があるみたいだから。 じゃあね。 先にコートへ行ってるよ。
伊武さん……最初から本気だな。 こりゃあ、俺も覚悟しねぇと。全力でいくぜ!
<対戦後>
あー、強いなー、キミってさー。 この俺が負けるんだからさぁ。 ウソみたいだよねー。
俺……勝ったんスか? ってことは……?
キミって、性格悪いの? 俺に勝ったことを自慢したいの? キミの勝ちだよ。優勝だよ。
俺が、優勝……それも伊武さんに勝って……。
何度も言わせないでくれるかな。 ああ、そうだよ。俺に勝ったから優勝したんだよ。 俺に勝つぐらいなんだから、優勝しても当然なんだけどね。 でなきゃ俺が負けるわけが……。
そうっスね……。 伊武さんとの試合、それだけの価値があったっス。
勝った相手への気配り? そういうのって、迷惑なんだけど。 ……いや、違うみたいだね。 あの試合を冷静に見たから、そういう感想を持ったんだろうな。 変わったよ、キミはさ。 初めて会った頃のキミはさぁ、勝ち負けにしか興味ないのかって思っていたよ。 まさか試合の価値を言うようになるなんてね。驚いたよ、本当にさ。 ちゃんと言ってなかったね。 優勝おめでとう、隼人。
ありがとうございます! 伊武さん!!
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