休日。 珍しく部活も休み。 天気も上々。 そして目の前には巴。 最高のシチュエーションである。 この状況で。 「あ、千石さん今の人素敵ですよね」 「ん?あのグレーのショールの子かな。うん、眉の形が決まってるね」 どうして俺は女の子ウォッチングなんてしてるんでしょう。 道路に面したコーヒーショップ。格好のポイントではある。 まあ、正確にはもっぱら熱心に通りすがりの女性を観察しているのは巴であり、千石はあいまいに相槌を打っている状況である。 彼女が楽しそうだから付き合ってたけどさすがに、そろそろ限界だ。 「あのさ、赤月さん」 「あーっ、すごい美人!」 …………さっきからもしかして、とは思っていたんだけど。 今ので確信した。 これは確信犯だ。 そっちがそう来るのならこちらも乗せられてはあげられない。 ……一瞬、条件反射で目を向けそうになったのはさておき。 「ねえ、俺さすがにデート中に他の子に目線向けるほどいいかげんじゃないんだけど」 「う」 大体、そんな余裕ないし。 俺の好きな子は、目まぐるしく表情が変わり、次の瞬間何をしでかすかわからない。 だから、いつだって目が離せないし離したくない。 視線を泳がせて千石の視線からの逃げ場を探していた巴だったが、どだい無理な話である。 「ねえ、どうして俺に他の子を見させようとしてるわけ?」 ずっと見ていると、巴の顔が段々朱に染まっていく。 思わず口元が弛んだ。 やっぱり、巴を見ているのが一番いい。 やがて、観念した巴が言いにくそうに口を開く。 「だって、千石さんが……」 「俺が?」 「見るから」 「は?」 勢いがついたのか、口を尖らせた巴が責めるような口調になる。 「今日、待ち合わせした時から千石さん、ずーっとこっち見てるじゃないですか! 落ち着かなくてしょうがないです。だから……」 「だから、視線を逸らそうとした?」 こくり、と巴が頷く。 「そんなに見てた?」 また再び巴が頷く。 そんなに見てたかな。 ……いや、見てたな、確かに。 だからって普通は女の子ウォッチングなんてしようとは思わないだろうけど。 そう思って苦笑すると、巴に睨まれた。 「笑い事じゃありませんよ。ヘビに睨まれた蛙みたいな気分です」 「はは、メンゴメンゴ。 だって久しぶりにキミに会えたからさ、つい、ね」 手を合わせて頭を下げながら様子を伺うと、そっぽを向きながら怒る振りを解くタイミングを見計らってるのがわかる。 こうやって見ているからまた怒られるんだけど。 でも、さ。 ヘビが蛙を睨むのって、カエルを食べる為だって、わかってる? |