見ていられなかった。 その場から駆け出したいという衝動にも駆られた。 だけど。 最後までみとどけなくちゃいけない。 そう、自分に言い聞かせて巴は最後までコートから目を逸らさなかった。 コート上を跳ねる黄色いボールは、涙で滲んで見えなかった。 「ああ、キミか」 室町を待っていたというよりは、試合が終わった時からずっとその場から動けなかったのではなかろうかという風情の巴が視界に入ると、彼女には気付かれないようにそっとため息を付いた。 正直、今は精神状態に余裕がない。 彼女に八つ当たりしてしまわないという自信がない。 当り障りなく対応してその場を立ち去ろうかと思っていたが、彼女の赤い目を見た途端に気が変わった。 時計に目をやる。 まだ帰りのバスの時間まで少しある。 巴を連れ出すと、ベンチに座らせて自販機で缶紅茶を買ってきて彼女に手渡す。 「はい。 好みがわからないんで適当に買ってきたけど大丈夫?」 「あ、はい……。 …………スイマセン。辛いの、室町さんのほうなのに、気を遣わせちゃって……」 そういうと、またしゃくりあげる。 泣きながらだと随分と飲みづらそうだ。 しかし、まったくだ。 負けたのは山吹中であり、室町である。 巴の属する青学は順調に勝ちを重ねている。 本来ならば慰める役は逆の筈だろう。 肝試しでよく言われる、『傍で感情を剥き出しにされると自分は却って冷静になる』というのはこういう場合にも適用されるんだろうか。 随分こちらは落ち着いている。 むろん、それだけが原因でない事はよくわかっているが。 さっきの試合、見ていたんだな。 ってことは、泣き顔、見られたなー。カッコ悪いな。 そんな微妙にピントのはずれた事を巴の泣き顔を見ながら考えていた。 さて、どう言ったら泣き止むかな巴は。 少し考えてゆっくりと口を開く。 「今年は、さ。 千石さんや南部長に連れてきてもらったようなものだから。 来年今度は自分の力でここまでくる。 今日置いてきた物を取りに来るから。 さしあたって明日からは早速、次に向けて練習だな」 「……本当は」 やっと泣き止んだ巴が決まり悪そうにハンパな笑みを浮かべてこちらを見る。 「本当は、室町さんに会ったら泣かないようにしようって、思ってたんです。 なのに結局泣いちゃいましたね。 甘えてばっかりだから、こんな時ぐらいはしっかりしていたかったんですけど…」 そんなことをいう彼女に、思わず笑みが漏れた。 「そんなことないさ。 赤月のおかげで思ってたよりも早く気持ちを切り替えることが出来たよ」 「え? 私、何かしました?」 「いや、泣いてただけだけど」 「う……」 「好きな子の前で何時までもメソメソしてるのは格好悪いからな」 「え? ……え!?」 「あ、もう集合時間だから。 じゃあ青学も頑張れよ」 そう言うとさっさと立ち上がり背を向ける。 「ちょ、ちょっと室町さん! 言い逃げは無しですよーっ!!」 |