右のポケットにキャンディが二つ。 出掛けになにげなく入れたそれに気づいた太一は、その片方を巴に差し出した。 いつものように二人でテニスをした帰りのことである。 「キャンディ、いるですか? よかったらどうぞ」 言ってから、しまったと思う。 また子供っぽい真似をした。 しかし巴は笑顔でそれを受け取った。 「ありがとう、太一君」 包みを開いてキャンディを口に入れる。 同様に太一も残りの一つを口にしたが、口の中に広がる甘さがやはりお前は子供なのだと言われているような気がしてすこし落ち込んだ。 「でも太一君、準備いいね。らしいっていうか」 「……キャンディなんか持ち歩いてるのは子供っぽいですよね」 なので、つい巴の言葉にも過剰に反応してしまった。 言ってから、しまったと思ったがもう遅い。 巴がすまなそうな顔になる。 「ゴメン。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけど」 「あ、いえ、ボクこそすいませんです! 巴さんは何も悪くないです!」 またやった。 このところ、たまに太一はこんな風にナーバスになって巴につっかかる。 つっかかるとは言っても太一の性格上たいした事はないのだが、巴の困ったような顔を見るのは嫌だ。 謝らせたいんじゃないのに。 巴は悪くないのに。 とはいっても巴にまったく責任が無いのかといえばそうでもない。 というより巴がいるからここまで太一は子供っぽいという事に過敏になるのだ。 巴の横に並んでも、姉弟にしか見えない。 そして巴の周りにはそれこそ大人な先輩達が大勢いる。 見た目も実力も、太一は到底太刀打ちできない。 そんな事を考えると、どんどん落ち込んでいく。 「……どうして、巴さんは、ボクと一緒にいるですか?」 「え」 「レギュラーにもなれないボクより、他の誰かと練習した方が、巴さんにとってはいいんじゃないですか?」 ずっと、胸に抱えていた疑問。 自分が誰かより劣っていると考えることよりも、自分が彼女の足を引っ張っているんじゃないかと考えることの方が嫌だ。 驚いたように巴が目を見開く。 巴の目を直視できなくて、太一は少し視線をそらした。 「……でも、太一君」 少しして、巴が口を開いた。 ゆっくり、言葉を選びながら話す。 「私と一緒に必殺技を作ってくれたのは太一君だし、合宿中私を助けてくれたのも、今こうやってにキャンディをくれるのも、太一君だよ。 私、太一君じゃないと困る。……確かに太一君には迷惑かけてるけど……ダメかな?」 そう言って、再び太一を見る。 ダメな訳がない。迷惑な訳もない。 太一は貧血をおこすほど激しく首を振った。 それをみてほっとしたように笑う巴に、自分は自分だから彼女の隣にいていいんだと、少し、安心した。 後日、外出時の太一にキャンディポットが再び視界に入った。 そこからキャンディを二つ取り出してポケットに入れ、少し考えた後、左のポケットにももう二つ、キャンディを放り込むと駆け足で家を出た。 しばらくは、これでいい。 |