大阪と東京なんてそれほど変わらないと思うのだけれど、やはりこちらの方が駅も広いし、路線も多いので乗り換えもややこしい。 それでも、財前はなんとか迷う事もなく目的の電車に乗り、目的の駅にたどり着いた。 携帯を開き、時間を確認する。 約束の時間には、まだ余裕がある。 と、いうよりは迷う事を想定して待ち合わせの時間を決めたので少々早いくらいだ。 初めから迷子前提で予定を決めると言うのも格好悪いが、実際に迷って遅刻するよりはずっといい。 そんな事を考えながら改札を抜けると、そこには既に待ち合わせの相手――巴が待っていた。 自分よりも先に気が付いていたのだろう。こちらを見て手を振っている。 「おはようございます!」 「……はよ」 早ない? 何分前から待ってたん? そんな言葉が浮かんだが結局口にはしない。 結果的に自分も約束の時間よりはずっと早い時刻にここに到着しているのだし。 そう思って必要最低限の言葉だけを口にした財前の顔を、巴はなんだかにこにこしながら見つめている。 「……何」 「えへへ」 「だから、何なん」 ヘラヘラしてキッショいな、とそのまま口から滑り出しそうになった言葉を押さえ込む。 さすがに女の子に言ってはいけない言葉くらいは分かる。 「本当に、来てくれたんだなあって思って」 「……自分が、先に大阪まで来たんやんか。一緒やろ」 今日は、三月十四日。ホワイトデーである。 先月のバレンタインに巴が大阪までチョコレート持参でやってきたので、今回は逆に財前が東京まで来たというわけである。 もう春休みに入っているからいいとしても、資金的都合でのった夜行バスは最低だった。 ろくに眠る事も出来ないし、落ち着かないし、身体も痛い。 けれど財前としては意地でも弱音は吐けない。 一ヶ月前に同じように夜行バスでやってきたはずの巴が不満も口にしていなかったのだから。それが黙っていただけなのか、実際彼女はなんの不満も感じなかったのかはさておき。 「そうですけど、私バレンタインだからってだけで大阪まで行ったわけじゃないですもん」 そんな事を言うので一瞬むっとする。 それじゃあ、チョコレートは唯の口実なのか、何かのついでなのか。 財前のその想像はある意味で当たっていた。 巴はその直後、はにかんだような笑顔でこう言ったのだから。 「だって、私財前さんに会いたかっただけなんですから」 だから、チョコを渡すとかバレンタインだとか、そういうのは口実にすぎないのだと。 不意打ちでそういう発言をされるのは困る。非常に困る。 それに。 「……だから、一緒やろ」 『それ』も含めて同じだ。 絶対に巴の耳には届かないように口の中で呟く。 微かな口の動きを見た巴が首をかしげた。 「なんですか?」 「なんでもないわ」 「え、でも今何か言いませんでした?」 「言ってへん」 「言いましたよね?」 「しつこい。行くで」 「えー、ごまかしてません?」 |