いつもどおりの部活の後、何気なくメールのチェックをしていた巴は目を疑った。
新着メール6通。
その一通を開く。
「…………え?」
文章をもう一度読み返す。
間違ってない。
このメール自体が間違いじゃなければ。
続いて残りのメールを開くと中身はどれもほぼ同じ。
それを確認すると同時に部室を駆け出して行く。
コートの前を通り抜け、校門へ。
全速力でそこまで到着すると、やはりメールが間違いじゃなかったことが証明された。
「お、来た来た」
「お疲れさん〜!」
ダッシュで姿を表した巴を出迎えたのは、まず白石。そして小春。その横で不機嫌そうな顔をしているのは一氏。ニヤニヤと笑っているのは忍足。そしてその後ろには千歳と石田。
四天宝寺の三年レギュラーが勢ぞろいである。
「な、なな、なんで皆さんがここにいるんですか!
っていうかいるんなら声かけてくれたらいいじゃないですか。
あとメールは一人送ってくれればいいのになんでほぼ同時に六通も送ってくるんですか!」
「ははは、すまんすまん」
「練習の邪魔したらあかんやろ?」
「わしはメールはしとらへんで」
「驚かせたかったからやん」
「オレは不本意やねんけどな」
「全員一気に返事されると訳がわかりませんっ!」
「だって、一気に巴が訊くから」
もっともではあるが。
一度頭の中で十数えた後で、再び巴が口を開く。
「……じゃ、とりあえず。
どうしてここにいるんですか」
巴の質問に、軽く目を見合わせて笑う。
小春がカバンから箱を取り出した。
「はい、今日は何の日?」
「え、14日。……って、まさか」
反射的に受け取った箱。
プレゼント用にラッピングされたそれ。
「まさか、ホワイトデーだから、なんて理由なんですか?」
「あたりー」
暢気に謙也が拍手をする。
「……本当に、ですか!?」
改めて手に渡されたプレゼントの箱を見る。
「超高額商品……」
「いや、そんなにしてへんで。
俺らに財前と金ちゃん、あとオサムちゃんからも徴収してるし」
「中身の金額の問題じゃないですよ!」
「巴、それに関しては俺も同感や」
思わず青ざめる巴に、一氏が頷いて同意を示す。
中身がなんであったとしても、わざわざ大阪からこの人数でやってくる交通費を考えるとめまいがする。
「そぎゃんことは気にせんでもよかよ。
……ばってん、別のことも、気にかけとっとか」
千歳の言葉に、慌てて顔をあげた。
いけない。気を遣わせた。
千歳はこういうことに聡い。隠し切ることは難しい。
「ち、違うんです!
嬉しいです。嬉しいんですよ、本当に! 本当なんですよ。ただ、ですね……」
ホワイトデーの今日、当日に皆がここにいると言うことは。
「バレンタインにチョコを皆さんに贈ったのは、私だけじゃないですよね?」
「まあ、そら……なぁ?」
謙也が軽く目を白石にやる。
白石がそっぽを向く。
「あ、わかった。
巴ちゃん、自分だけがお返し貰うのはどうかなー、って思ってるん?」
小春の指摘に、プレゼントを握ったまま、俯く。
すごく嬉しい。
それは本当。
だけど、少し胸の奥に沸いて出る罪悪感のような気持ち。
それも、本当。
言い方は悪いが、巴が先月送ったチョコレートは四天宝寺のメンバーに連名で贈ったものだ。
きっと同じ日、個人宛に想いを込めてチョコを贈った子もいる。
「わかるわぁ。
女同士やから切ないオトメゴコロもわかるもんねぇ」
「まあ小春にはわからんはずやけど……イテっ! 一氏、テメェっ!」
頭を押さえながら一氏に抗議する忍足には構わず、白石が少し苦笑気味に口を開く。
「まあ、確かに全然もろてへん言うたらウソになるな。
けどもともとくれた子全員にお返しするわけとちゃうし。
それやったら一番あげたい子のところに行くのが当然やろ?」
それが、義理でも本命でも。
「まあつまりは半分はわしらの自己満足っちゅうことや。せやから巴が気にすることあらへん」
ぽん、と巴の頭に手を置いて石田が言う。
自己満足。
渡す相手のことを思うのは当然だけど渡したいのはこちらの都合。
巴に気を遣わさないようにそう言ってくれるのが嬉しい。
やっと笑顔を見せた巴に、安心したように顔を見合わせる。
「さて、用事も終わったし。
当然すぐ帰るわけちゃうねんけど、巴、明日は空いてる?」
いつか、たった一人の誰かからの贈り物を受け取るようになるのかもしれない。
けど、今はこの距離感が心地いい。
そう思いながら、今度こそ巴は満面の笑みで即答した。
「はい、もちろん!」
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