「あー、やっぱキツイ練習の後の風呂は格別だな!」
「あの程度の練習で。まだまだだね」
「なんだとテメェ!」
風呂あがりに髪を拭きながら言い争う隼人とリョーマ。
もはやおなじみの光景である。
ただ今回違う点がひとつ。
「あはは、でも大きなお風呂は気持ちいいよね」
騎一がその場に一緒にいる事だ。
青学の夏合宿、リョーマ達男子1年レギュラー三人はまとめて同室に割り当てられていた。
「ホント、合宿でまでこの山猿と一緒なんてうんざり」
「そりゃこっちの台詞だ!」
「でも俺はリョーマ君と隼人君の二人と同室で不満ないけど」
「こっちだって天野に不満はないよ」「俺だって騎一に不満なんかねえよ」
同時に答える二人に騎一は苦笑する。
大体この二人がもめそうになると騎一が取り成してなんとなく丸く収まる。
これが青学テニス部の基本だ。
細かい衝突はしょっちゅうだが去年に比べると雲泥の差、と先輩は言う。
……1年遅く生まれて良かったな、と騎一も普段の海堂と桃城のいがみ合いを見て密かに思っている。
「そっか、いつもだったらここに俺じゃなくて赤月さんがいるんだ」
さぞかし毎日にぎやかなのだろう。
一人っ子の騎一としては少々うらやましい。
もっとも、同じ一人っ子であるはずのリョーマは日々不満たらたらだが。
「そういやリョーマにいっぺん聞いて見たかったんだけどさ」
「……何」
「お前、巴のどこがいいわけ?」
唐突な隼人の発言に濡れたタオルをタオル掛けにかけて干そうとしていたリョーマが手を滑らせタオル掛けをひっくり返す。
「…………何言ってんの!?」
「だから、巴のどこがいいのかって。
だってアイツお前よりずっとデカイし、ガキだし、うるせえしお節介だし身のほど知らずだし、何がいいのかわかんねぇからさ」
散々な言いようであるが隼人と巴の性格はよく似ていると評判である。
しかしリョーマにとっての問題はそこではない。
「だから、なんでそれを俺に聞くのさ」
「だって、好きなんじゃねえの? アイツの事」
「バ、バッカじゃないの?んな訳ないじゃん!」
言わずもがなの事を、といった調子の隼人に声を荒げてリョーマが反論する。
リョーマが声を荒げるのは少々珍しい。
「あ、違うんだ」
「天野まで何言ってんの。誰があんな……」
そこまでリョーマが言ったところで急に部屋のドアが開いた。
覗きこんだ顔に、リョーマが凍りつく。
「お邪魔しまーす。なんかにぎやかだねー」
そう言いながら、姿を現したのは、言うまでもなく巴。
口を開けたり閉じたりしているリョーマを見て、動揺してるなーと騎一は呑気な感想を抱く。
「お、お前今の話聞いて……?」
「ううん、なんかリョーマ君が怒鳴ってたのは聞こえたけど。
また隼人とケンカ? 天野君に迷惑掛けない程度にしなよ」
「うるせえよ、大きなお世話だ。ってかお前何しに来たんだよ」
毒づく隼人に巴が舌を突き出す。
「別に隼人に会いに来たわけじゃないよ。
桃ちゃん先輩が、トランプ大会やるから八時に部屋に集合って。
ところで様子が変だけどどうかしたの? リョーマ君」
首をかしげて尋ねる巴に、リョーマはきまりが悪かったのか「別に。……ジュース、買いに言ってくる」と口早に言うと早々に部屋を後にした。
釈然としない表情でリョーマが去って行った方を見る巴に騎一が手を振る。
「あー、気にしないで。
後で桃先輩たちの部屋に行けばいいんだよね」
「そう。あとチップ代わりにするからお菓子持ってくるようにってリョーマ君にも伝えといて」
あとまだ堀尾君達にも伝えなくちゃ、と気を取り直した慌ただしく巴が部屋を去る。
部屋に残った二人がお互い目を合わす。
「……絶対だよなあ」
「……確定だよね」
苦笑いする騎一に、隼人は大きくのびをすると敷いてあった布団に倒れ込む。
「やっぱり、わかんねえ」
「そうかな?」
意外な返答に、再び顔を上げてまじまじと騎一を見る。
騎一の表情は変わらない。
「だって、隼人君は兄妹だもん、わかんなくて当然だよ。っていうかわかったらマズイし」
「……じゃ、お前わかんのかよ」
隼人の言葉に俺? と自分の顔を指す。
隼人が頷くとほんの少し考える素振りを見せたがすぐににこりと微笑むと肯定した。
「うん、わかんなくはないよ。赤月さん可愛いもの」
あっさりと可愛い、なんて言葉を言ってのけた騎一に思わず赤面した隼人は、なんで俺が照れなきゃなんねえんだ、と思いつつ
「前言撤回。お前が一番わかんねえ」
そう、呟いた。
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