冬の間は部活が終わるとあっという間にに外は真っ暗だ。
日が落ちると同時に風も一気に冷たくなり顔を刺す。
部活で体を目一杯使ったあとの身には気持ちいいが、汗をかいたままだと急激に体温を奪われてしまう。
だからさっさと帰ろう。
暖かい部屋に。
そう思っていたリョーマに、巴は真逆の事を言った。
「ねえ、リョーマくん。
ちょっと回り道して帰ろうよ」
「やだ。寒いのに」
「いいじゃない、せっかくなんだし」
なにが『せっかく』なのやら。
なんだかんだで結局巴に押しきられ、二人で家とは微妙にずれた方角へ歩き出す。
「どこ行くの」
てっきりどこかの店に寄り道でもするのかと思いきや、巴が向かっている先は商店街ではなく住宅街だ。
「うん、もうちょっとなんだけど……ほらあれ!」
巴が指差した先に見えたのは、見知らぬ誰かの家だった。
ただ、周辺の他の家と一線を画しているのは煌々と輝くイルミネーション。
近くに寄ってみると色とりどりの明かりの合間にクリスマスの飾りも施されている。
「ふうん」
「ね、すごいでしょ!」
「別に赤月がすごいわけじゃないけどね」
リョーマの反応が悪くない事に気を良くしたのか、巴は次はこっち、その次はあっち、とリョーマの手を引き住宅街のイルミネーションの綺麗な家を巡っていく。
「やっぱり、これって今日までなのかな」
「大半はそうじゃないの」
一部防犯目的だかなんだかでクリスマスを過ぎてもイルミネーションを外さない家はあるが、大抵は25日には片付けてしまう。
「そうだよね……やっぱり。
でも、24日に向けてこうやって飾りたててるのって、リョーマくんの誕生日を皆が祝ってくれてるみたいでちょっと嬉しくなるね」
「……バカじゃないの!? キリストの誕生日でしょ」
「そうだけどさ。いいじゃない、便乗したって」
いくらなんでも神様の聖誕祭に便乗って。
そもそも、自分の誕生日なのに何故巴が嬉しくなるのか。
「大体、知らない人に祝われてたって嬉しくもなんともないし」
「そうなの?」
「そう。
……ていうか、さ」
さらりと言われたので今まで気が付かなかった。
「何?」
「誕生日、覚えてたんだ」
リョーマが言うと、巴はにこりと笑った。
「もちろん!」
「……去年は忘れてたくせに」
「去年は去年、今年は今年だよ」
そう言うとまた歩き出す。今度は徐々に家の方へと近づいていく。
どうやらイルミネーション巡りは終了したらしい。
「ね、リョーマくん」
「なに」
「お誕生日、おめでとう」
家の灯りが見えてきた。
すっかり暮れきった夕闇の中で、二人の吐く白い息が現れては消える。
ほら、やっぱり。
たとえ便乗でなく、世界中の人が自分を祝ってくれたとしても。
たった一人の『おめでとう』の方がきっとずっと嬉しい。
―――Merry Christmas!―――
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