今年も猛暑である。
照りつける太陽でアスファルトの上からは陽炎が見えそうな日が続く。
昔ながらの日本家屋の越前家は最近の一戸建てに比べれば風通しが抜群に良い。
しかしその代償として、冷房や暖房が効きにくいという欠点もある。
なので、夏でも日中クーラーをつけずにすごしていることも多い。
そんな越前家では日中にカルピンが良く過ごしている場所は、大概その時間に一番家で涼しい場所だということで、カルピンのいる場所に人が寄っていったりする。
ちなみに昼過ぎに家で一番涼しい場所はカルピンを探すまでもなく縁側の一角であった。
凛子が丹精して育てている朝顔が丁度日差しを遮ってくれる。
風通しも良く、朝顔の葉の合間から吹く風が心地良い。
その日、その場所でリョーマの目に映ったのは、午睡を楽しむカルピンと、巴であった。
リョーマが軽く眉を寄せる。
ちなみにその手に持っているのは携帯ゲーム機。
同じ場所を狙って来たのだが一番の特等席は既に占拠されていたという訳だ。
しかたがないので少し離れた場所に腰を下ろす。
昨日の夜は湿気で寝苦しかったからだろうか、熟睡している。
ゲーム機からの電子音に目を覚ます様子もない。
キャミソール一枚に短パン。
長い足を投げ出して気持ちよさげに寝息を立てている。
別に注視しているわけではないが、視界の端に映りこむので落ち着かないことこの上ない。
冷房を入れなければ家で一番涼しい場所にいるはずなんだけど。
今日は特に暑い。
集中できないのでゲームなんかやってても上手く進むわけもない。
何度目かのゲームオーバーの後、諦めてリョーマはゲーム機の電源を切った。
そのまま立ち去りかけたが、なんとなく面白くなくて軽く巴の足首を蹴る。
起きないかと思ったが、巴がうっすらとまぶたを開いた。
そのまま緩慢な動作で顔をあげてこちらを見る。
「ん……リョーマくん? 何?」
こちらは見たが起き上がる様子はない。
「寝るなら部屋で寝れば」
「ここが一番涼しいもん。いいじゃん別に」
そう言うと再び瞼が落ちる。
「自分ちじゃないんだから、部屋から出るならもうちょっとマシな格好してくれる」
「別にパジャマや下着姿じゃないんだからいいじゃない……」
返事はしているが、もう半分寝ている。
寝るならせめて足を隠して欲しい。とは言えない。
「言っとくけど」
「……んー?」
「あんま油断してたら、噛み付かれても自己責任だからね」
そう言うだけ言ってリョーマが退散する。
残された巴はリョーマが去って行ったほうを見て首をかしげた。
「……カルピンは、噛み付かないよねえ?」
傍らのカルピンにそう言うと、カルピンは大きく口を開けて「ほあら」と鳴き声とも欠伸ともつかない声をあげた。
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