太陽の光を容赦なく浴びるこの時期、夏休みは暑さ対策であるはずだが、部活はほぼ毎日あるので結局猛暑の中学校に向かわなければならないことに変わりはない。
普段家を出る時間よりは少し遅いのだけど、その分太陽が高い位置に移動しているので暑さも倍増である。
蝉の声も今がピークとばかりにわんわんと頭に響く。
いつも以上に帽子を目深にかぶり、歩を進めていたリョーマは、反射するアスファルトの地面に細く伸びた影を見つけ、顔を上げた。
ひまわりだ。
朝夕、通りがけに目に入るので、何かの茎が伸びているな、とは思っていたけれど別段意識していなかったのでこんなに高く成長していることも、いつのまにか花を咲かせていることにも気が付かなかった。
大輪の花はリョーマを無視するかのように上、太陽の方へと顔を向けている。
確か、ついこの間まではリョーマの目線よりも下だったのに。
……そういえば、この夏で何cm伸びたんだっけ。
不愉快なことを思いだし、一人顔をしかめる。
上ばかり見ている花は、誰かを思い起こさせた。
あいつは何cm伸びたって言ってたっけ。
「やっと追いついた!
もう、どうせ行く先は一緒なんだから置いていかないでもいいじゃない!」
駆け足の音が近づいてきたと思ったら、すぐに背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
リョーマの眉間のシワが一層深くなる。
そう、別に背が伸びていないわけじゃない。
いまだコイツに追いつかないのが腹立たしいだけだ。
そんなどうしようもない不満をぶつける当てもなくイラついているリョーマに気づくはずもなく、巴もまたヒマワリに目をやる。
「あ、ひまわりだ。
やっと咲いたんだねー。
リョーマくん、私たちも負けずに全国大会で花咲こうね!」
「……別に全国でお前と組むなんて、まだ決まってないし」
「えー!?
そんなこと言わなくたっていいじゃない」
別に組まないつもりもないんだけど。
だけど、それは口にしない。
「……ひまわりじゃなくてセミかも」
「へ?」
「お前。
分不相応に上ばっか向いてるところが似てるかも、と思ったけどうるさいからどっちかっていうとセミ」
「何それ。
でもいいよ別に。ひまわりもセミも好きだもん」
「……あっそ」
アッサリと笑っていう巴に拍子抜けする。
イヤミなんだけど。
そう言いかえす気にもなれなくて、リョーマはただ、そこから走り出した。
「あ! 待ってよ!」
「遅れるとまた部長にランニングさせられるよ」
それはヤだな、と巴がリョーマの横に並んで走る。
軽い走りだったソレは、二人並ぶと全力疾走に変わる。
隣の相手に負けないように、速く、もっと速く。
しばらくすると、自分の呼吸の音がセミの声より大きく響いてくる。
「――も」
「……え?」
荒い息の下から吐いた言葉は、巴の耳には入らない。
頭に響くセミの声。
上ばかり向くひまわりの花。
本当は、自分だって嫌いじゃない。
そこから連想される、誰かのことも。
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