「もう、リョーマくんいつまで怒ってるの?」 「別に」 「別にじゃないじゃない!」
登校時、足早に歩くリョーマと、それについて歩きながら声を荒げる巴。 リョーマはおそらく巴を振り切りたいのだろうが、残念ながら、そして屈辱的な事にコンパスの差で上手くいかない。
「おはよう。 どうかしたの?」
「あ、おはようございます不二先輩」 「……はよっス」
気になって声をかけた不二に、立ち止まって挨拶する巴。 その隙に会釈だけして立ち去るリョーマ。
「あ、リョーマくん! ……ったくもう」
巴が頬を膨らませる。 しかしこれ以上追い回す事は諦めたようだ。
「今度は何で揉めてるの?」
不二の質問に、巴が上目遣いに不満そうな顔を見せる。
「なんだかその言い方だとしょっちゅう揉めてるみたいです」
実際問題そのとおりなのだが。
しょっちゅう喧嘩している割に行動は一緒の事が多い二人は、まさに兄弟のようだ。 一緒に暮らしていると自然そうなるのだろうか。
「別に、大した事じゃないんですよ。 昨日スーパーに買い出しに行った時に、店のおじさんが仲のいい兄弟だねって」
しかしそれは別に珍しい事ではないのでは。 思わずそう考えた不二だったが、それに巴も同意する。
「そうなんですよ。 でもどうもその時おじさんが『坊主、お姉ちゃんの手伝いか』って言ったのが気にいらなかったみたいで」
私より下に思われたのが気にいらないのかな。 でもそれを私に怒られたって……、とぼやく巴。
「……多分、越前は怒っているのとはちょっと違うんじゃないかな」
不二の言葉に巴が首を傾げる。
「じゃあ、なんなんですか?」 「うん、それはちょっと説明が難しいな」
振り返ると、不二と会話をする巴の姿が目に入った。 少し顔を上げて、上向き加減の目線。
自分と話す時の巴は逆だ。 それは当たり前だし、すぐにどうこうできることでもない。
それはわかってる。 ……少なくとも理性では。 だから苛ついているのもおかしいとわかっているのだ。 今の所どうしようもないのだから。
乾の指示どおり、毎日二本牛乳飲んでたら現状は変わるのかな。
だったら、いいんだけど。
そもそも、皆に見下ろされるのなんて今に始まった事じゃないのに、どうして急にこんなに気になりだしたんだろう。 見上げる視線が欲しいなんて、誰にも姉弟だなんて思われないようになりたいなんて思うようになったんだろう。
その答えは、まだ、知らない。
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