――ねえ、知ってる? あの先輩。――
――知ってる知ってる。――
――背もちょっと高くて格好いいよね。――
――あ、こっち見た!――
「何やってんだ、お前?」
あらぬ方向に手を振っている巴に、桃城が怪訝そうに声をかけると、巴がコートの向こうの一角を指差した。
ピカピカの制服姿もまだ初々しい一年生達がフェンス越しにテニス部の練習を見学している。
キャアキャアと黄色い声を上げてはしゃいでいるのがよく聞こえる。もっとも、話の内容までは聞き取れないが。
「見学だけですかねー。
折角だから、仮入部でもしてくれればいいのに」
ついに私も先輩ですよ、先輩!
そう言ってはしゃぐ巴は暢気なものである。
実際のところとしては一年が入ってくるとその指導に手を取られるので練習時間が減る。必ずしもいい事ばかりともいえないのだが。
当然、入らなければもっと困る。難しいところではある。
主力の3年が抜けて半年が経過したが、その大きな穴はいまだ埋まりきっていない。
去年のリョーマのような即戦力が入ってくれればそれはありがたいが、期待はできない。
と、いうよりも。
「……お前、ありゃ入部希望とかそんなんじゃねえだろ」
「え? そうなんですか?」
呆れたように言うと、巴がきょとんとした顔で首をかしげる。
なんで分からない。
見るからに違うだろ。
――なんだかあの二人、仲いいね。――
――付き合ってるのかな?――
――え〜ーー
ものすごく見られている感じがして落ち着かないのだが、コイツは気付かないんだろうか。
「あれは……お前のダチと同類だろ」
「ダチって……朋ちゃんですか?」
リョーマのいるところに朋香ありき、の感も漂う朋香と同類。
という事は当然。
「……それは、確かに入部希望者ではなさそうですね……」
「だからそう言ってるだろが」
「あれ、でも今リョーマ君いませんよ?」
リョーマは今日は掃除当番でまだ部活に顔を出していない。
「ちげーよ。
別に越前の追っかけって言ってるわけじゃなく、同類だって言ってるだけだろが」
「あ、そっか。桃ちゃん先輩だって人気ありますもんねー」
「それも違う……」
なんでわかんねーんだか。
俺だって理解したいわけじゃねえけど、と桃城は内心溜息をつく。
わざわざ説明してやる義理もねーんだけど。
「お前を見に来てんだろ」
「へ? 私?」
よほど予想外の答だったんだろう。
間の抜けた声を出して、自分で自分を指差す。
「なんでわかるんですか?」
「わからいでか。お前がなんかするたびにキャーキャー言ってんじゃねえか」
「よく見てますね」
「見てねえ!」
ただ、見てる方向が同じだけだ、とは言えない。
バレるはずもないけれどきまりが悪くなって目をそらした桃城に、巴が不思議そうな目を向ける。
「……なんだよ」
「桃ちゃん先輩、ちょっと機嫌悪い?」
「別にんな事ねえよ」
「ひょっとして、ヤキモチやいてます?」
「な……っ! んなわけあるか!」
なんで1年女子にヤキモチなんて焼かなきゃならねえんだ。
思わず声を荒げた桃城に、巴はニヤニヤしながら肩を叩いてきた。
「心配ないですって。
さっきも言いましたけど桃ちゃん先輩、結構人気あるんですよ?」
……そっちかよ。
一気に脱力する。
「だから、違うっつーの……本当に……」
「はいはい。大丈夫ですよ」
「全然大丈夫じゃねーっての……」
心底わかってねえ。
まだ部活が始まって間もないと言うのに、桃城はすさまじい疲労感にガックリと肩を落とした。
――ほら、絶対そうだって。――
――えー、やっぱそうなのかなー。――
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