「およ」 巴の姿が見えない、ということで探し回っていた菊丸だったが、やっとこ見つけた彼女は木陰で熟睡していた。 あまり昼寝に適している環境とは思えないのだが、眠りは深そうだ。 寝かしておいてあげようかな、と思って暫く巴の寝顔を眺めていた菊丸だったが、すぐに飽きた。 折角一緒にいるのだから、起きている彼女と話がしたい。 起きている彼女とテニスがしたい。 そう思ったから巴を探していたのだし。 声をかけようとしたが、思いたってイタズラ心で巴の髪を一房手にとり、毛先で彼女の顔をくすぐる。 しゃかしゃかしゃか。 「…………」 覚醒しきってはいないが、キモチ悪いのだろう、軽く眉根を寄せる。 が、そのあとに続いた言葉がいけなかった。 「もう……やめてよ、リョーマくん……」 む。 なんで、おチビの名前がここで出てくるわけ? なんだかちょっと面白くなくて、菊丸は軽く巴の額を指で弾く。 その衝撃で、半覚醒状態だった巴がやっと目を覚ました。 「ひゃっ! ……あれ、英二先輩」 「ほぉら、起きた起きた! 練習するぞー」 きょとんとして菊丸を見あげる巴に構わず、先に立って歩く。 慌てて巴がその後を追いかける。 巴には、菊丸が不機嫌な理由がわからない。 「英二先輩」 「んー?」 「なに怒ってるんですか?」 「怒ってなんかないもんね」 「その言い方がもう、怒ってますよー」 八つ当たりなのが判っているから、あまり突っ込まれたくない。 しかし、不機嫌の理由を作ったのは間違いなく巴だ。 「モエりん」 「はい?」 ふいに菊丸が足を止める。 小走りについてきていた巴も、慌てて急ブレーキをかける。 少し前かがみの姿勢をとって巴の真正面に顔を近づけると、人差し指を突きつけた。 「お前と一緒にいるのは俺だかんね! おチビでなく! 判った?」 「え? そんなこと、判りきってますけど……」 怪訝な表情を見せつつも、とりあえず巴が頷く。 『今』って意味じゃないんだけど。 ま、いっか。 「……で、さっきは何の夢見てたわけ?」 「んー…どんな夢でしたっけねぇ…あ、そうだ、カルピンになってました」 「カルピン? って、おチビの家の猫?」 「はい、で、私はお昼寝をしたいのにリョーマくんが猫じゃらしを突きつけてくるんですよ〜」 「にゃるほどね。 ……ま、ホントにモエりんが猫だったら俺がウチにつれて帰っちゃうけどね」 そして外に出さないでウチに閉じ込めておくのに。 そんなことを口に出さずに思う。 ……とは言っても、きっとコイツだったら逃げ出すなぁ、絶対。 巴は、そんなこちらの気も知らず、猫になっちゃったら英二先輩とテニスできなくなるから困ります、と言って笑った。 |