「観月さんの好みのタイプってどんなですか?」
いつもながら唐突な巴の質問に、観月は眉をひそめた。
「そんな事を聞いてどうすると言うんです? 無意味ですね」
「無意味なんかじゃありませんよー」
巴が反論するが、別に根拠あっての言葉ではないらしい。
証拠に、
「じゃあ、どういう意味があるのか、教えてもらいましょうか」
意地悪くそういうと、途端に黙り込む。
一般女子の如く好きな人の好みを聞いて参考にしたい、などという理由でもあればまだしも、彼女の場合は純然足る好奇心であると、その顔に書いてある。
それもまた、観月には少々面白くない。
「あ、じゃあ、逆だったらどうですか?
こういうタイプはイヤだな、ってのは。それだったらありますよね?」
こちらの気持ちも知らず、まだそんな事を言ってくる。
このしつこさから考えると、どうも巴に余計な事を言った人間がいるようだ。
「……僕の情報と引き換えに、何をもらう約束なんですか?」
「え? や、やだなあ、別に誰かに頼まれてさぐりを入れてる訳じゃないですって」
慌てて否定する。
モノ、食品と引き換えに調査を代行したのではないようだ。
と、なると。
「では、木更津くんと柳沢くんに唆されましたね」
「え!」
巴の瞳が驚きで見開かれる。
その反応だけで証拠は充分だ。
あの二人、次のスクール練習の時にはどんな目に遭わせてやろうかと思わず黒い方向に思考が動く。
相変わらず余計な事にだけはこまめに動く。
「え、あ、その……」
「あまり彼らの口車に乗らないようご注意なさい」
動転する巴に、そう言って会話を終了させたつもりの観月だったが、そうは問屋がおろさない。
どうやら観月は怒っていないようだと判断した巴が、再度話題を蒸し返す。
「観月さん、まだ質問に答えてもらってないですよ」
ため息をつく。
答える義務はまったくないのだが、ここまで熱心に聞いているものを邪険に払いのけるのも気が引ける。
本当に、ボクは巴くんに甘い。
「わ、か、り、ま、し、た。
このままでは一日中でもこの質問ばかりを繰り返されそうですからね。
ボクの苦手なタイプは……」
ここで一旦言葉を切る。
「まず、察しの悪い人間。
場の空気を解さず騒がしすぎるのも考えものですね。
そしてデリカシーのない人も困ります。
それと、データの取りようがないほど破天荒だと確実にこちらのシナリオに沿って動いてはくれないので苦手ですね」
一気に言いきった観月に巴が顔をしかめる。
「それ、女の子の話ですか? 選手の話でなく?」
「ええ。そのつもりですが。
まあ、基本は同じだと思いますけどね」
「……なんだか、私を名指しされてるみたいに思えたんですけど……」
恐る恐る言う巴に、にっこりと観月は微笑んだ。
「奇遇ですね。ボクも同感です。
……だから意味がない、と言ったんですよ」
「? どういう意味ですか?」
先の言葉とのつながりが理解できず、首をかしげながら巴が尋ねる。
ほら、察しが悪い。
「条件付けで人を好きになるなんてことはない、と言う事ですよ」
でなければ、ボクがキミを一番近い存在にしたい、なんて思う筈がないんですから。
好きでなければ、傍に寄せ付けもしないような、一番苦手なタイプ。
かくの如く、どんなにデータを集めても、人の想いだけはままならない。
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