遠距離と言うほどではないが、近くとは言い難い。 青春学園と立海大付属の間の距離である。 成人ならなんということのない距離だろうけど、中高生には微妙な距離。 ましてやそれが好きな相手との距離ともなれば。 『すいません、大会を控えてるんでしばらくはちょっと……』 ここしばらく、週末に誘いをかけた時の巴の返事はほぼ同じ。 大会、とは新年度になってから初の公式戦である地区大会のことである。 もっとも、テニスが最優先なのは当然だ。 自分だってそうなんだし、そこをどうこう言うつもりは毛頭ない。 でもまあ、幸村としては正直面白くない気持ちが少々あるというのもまた偽らざる本音なわけで。 問題は、パートナーだ。 地区大会当日。 予定が丁度空いたので、幸村は会場に足を踏み入れていた。 昨年度は療養中だったこともあって他校の試合を観にいく事なんて殆どなかった。 こうして他人の試合を見る為に会場に来ることなんて随分久しぶりだ。 トーナメント表をざっと眺めてみる。 不動峰と青学を除くと、これといって注目するような学校は特に見当たらない。 「へぇ、アンタ来てたんだ」 背後からかけられた声に振り返る。 そばにあった自販機に用があったんだろう、手に炭酸飲料の缶を持ってこちらを見ている青学の選手。 少しだけ身長は伸びたようだが、その挑戦的な目は変わらない。 みまごうべくもない。越前リョーマだ。 「やあボウヤ、久しぶり」 相変わらずの呼称に少し鼻白んだ様子を見せる。 「……ボウヤってのやめてくんない。 わざわざ地区大会から観に来るなんて、卒業したのに熱心だね」 「うん。わざわざ一月以上も休日返上してまで個人練習に費やすくらいだから、ひょっとしたら今年の青学は危ういのかと思って」 「…………んなわけないじゃん」 空々しい発言をかますのでこちらもそのままお返ししてみたら、途端に険のある目つきに変わる。 自分から仕掛けてきておいて。 大概このボウヤは解りやすい。 「そう? それじゃボウヤ個人の問題かな」 「シングルスなら負けないけど、ミクスドは相手に足ひっぱられたら終わりなんだからしょうがないし」 「へえ。去年は見た感じミクスドはしぶしぶ、って感じだったけど随分力が入るようになったんだ?」 「別に。ただ、やるからには負ける気ないから」 「ふうん?」 嘘をつく時にはしゃべり過ぎないほうがいい、ってのは誰が言っていたんだったか。 「あ、幸村さん!?」 少し離れたところから声がかけられた。 これは振り返るまでもなく誰か分かる。 何か言ってやろうかと思っていたけれど、ここまでみたいだ。 「それじゃあね、ボウヤ」 そう言って巴のほうに向かおうとした時、小さな声で越前が呟いた。 「アンタもあんまり余裕かましてると、足元すくわれるよ」 ……ふーん。 余裕、ねえ。 振り返らずに肝に銘じておくよ、とそれだけ言うとつまらなそうな顔で越前もまたその場を離れた。 代わりのように巴が足早にこちらに駆けて来る。 「幸村さん、来てくれたんですね! 言ってくれれば良かったのに、びっくりしちゃいましたよ」 「うん、予定が空いたから」 「さっき、リョーマくんと何話してたんですか?」 「別に大した事じゃないよ。 ……まったく、余裕なんていつだってないんだけどね」 「え?」 「いや、何も?」 |