練習が終わり、帰路につこうとしたそんな時、真田は不意に何か思い出したように鞄の中に手をいれた。
「何か忘れ物でもしました?」
「いや、そうではない。…ああ、あった。
これをお前にやろうと思ってな」
そう言って真田が差し出したのは個包装された小さなキャンディ。
それも、沢山。
「キャンディ?
しかも黒飴でも塩飴でもないこんなかわいらしいのをどうしたんですか真田さん」
手のひらにそれを受け取った巴が不思議そうに尋ねる。
「…黒飴なら自然なのか」
「これよりは」
口に入るのがやっとというくらい大きな、いかにも駄菓子という感じの飴ならまだ真田の鞄から出てきても違和感はない。
そう堂々と断言する巴に憮然とした表情で真田が抗弁する。
「これとて俺が買った訳ではない。
先日本屋に行ったところフェアだとかで飴のつかみ取りをやらされただけだ」
お菓子のつかみ取りを、真田が。
「それを勧めた店員さんもいい度胸してますねえ…」
「どういう意味だ」
「いえ、その場に居あわせなかったのがとても残念です」
是非見たかった。
「まあ、なにはともあれ、早速ひとついただきますね」
そう言うと、小袋のひとつを開封し、中のキャンディを口に入れる。
たかだか飴玉ひとつで、と思わず感心するほどに嬉しそうに。
キャンディとはそれほど美味いものだっただろうか、と思わず真田は考える。
なので、
「せっかくだから真田さんも一つどうぞ」
と、手渡された飴玉をついそのまま真田も素直にも口にした。
口の中に広がったのはやはりただの飴だ。
甘酸っぱい、平凡な味。
だけど、やたらと幸せそうにそれを食べる巴と一緒にいると、真田の口にしているそれもなんだか特別な物のように感じられた。
やはりただの飴玉だけど、ただの飴玉も悪くは無い。
「しかし真田さん、気合入れて取ったんですね。こんなに沢山」
「む? いや別に気合を入れて掴んだ覚えは無いぞ」
「だって私じゃこんなに一度につかめませんよー」
自分のカバンに移し替えたキャンディを軽く掴んで巴がそう言った。
確かに巴の手には余る量だ。
「お前の手が小さいだけだろう」
「でも、女の子の中では大きい方ですよ?」
そう言って巴が右手を開いて見せたので、何の気なしに真田はその手に自分の左手を重ねた。
「大きいとは言っても女子の手だ。俺の第一関節までしかない」
そう言ったのだが何故か巴の耳には入っていないようで、急にうろたえられた。
「え、あ、さ、真田さん!?」
「ん? どうした?」
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