サプライズ






「仁王さん、柳生さん!」


 突然呼びかけられた名前に振り向いた仁王の視界に映ったもの。
 大きな声をあげてこちらに手を振っているロングへアの少女。


「おや、あれは巴さんですね」

 柳生の言葉を聞くまでもなく間違いない。
 どうみても巴だ。
 二人が自分に気がついたのを確認すると、勢いよくこちらに駆け寄ろうとして、自分が今いるのが廊下だという事に気がつき、小走り程度に減速して近づいてくる。


 そう、廊下である。

 今仁王達がいるのは立海大附属中学の校舎内の廊下である。
 ここで目にするべきは立海の紺のジャンパースカートであって断じて青学のセーラーではない。


 そのイレギュラーは二人の目前に到達すると

「こんにちはー。お二人は今帰るところですか?」


 と、のんきな挨拶をかました。


「こんにちは。
 ええ、今まで冬季講習を受けていたもので」

 隣の柳生がこれまたのんきな答えを返す。


「そうですか。受験生は大変ですね」
「俺たちの事はええんじゃ。それよりなんで巴はここにおる?」

 世間話を遮って仁王が口を挟む。
 そう、なんで今日巴が立海に来ているのか。


「竜崎先生のつきそいです。
 先生を廊下で待ってたらお二人の姿をみかけたんで」


 明朗簡潔な答。
 そりゃそうだ。
 巴が今ここにいる理由なんてそんなものだろう。


「あぁ、そうか」


 馬鹿な事を訊いた。



「? どうかしたんですか?」

 怪訝そうに巴が尋ねる。
 なんだか先ほどから仁王の様子は少しおかしい。
 と、不意に柳生がその原因に思いあたる。


「ああ、ひょっとして巴さんはご存じないのですね」
「柳生」

 不機嫌そうに仁王が遮ったが巴がその言葉を聞き流す訳がない。
 たちまちのうちに食いついてくる。

「何をですか?」

 仁王に答えるつもりがない様子を見て、柳生が代わりに巴に顔を近づけてそっと告げる。


「今日は、仁王くんの誕生日なんですよ。
 そんな日に突然貴女が現れたから驚いたんです」
「柳生」


 仁王の顔が苦虫を噛みつぶしたようになる。
 余計な事を。


 期待していたようで格好が悪い。
 いや実際一瞬期待したのだ。
 彼女が知っているはずがないのに。
 自分が何も告げていないのに彼女は知っていたのかもしれないと期待した。
 だからいっそう体裁が悪い。


 しかしその不機嫌顔も長くは続かなかった。


「え? そうなんですか?
 仁王さん、おめでとうございます!
 知ってたら何かプレゼントでも用意したのに……」


 驚いたあと、ひどく嬉しそうな表情で巴がまくしたてたからである。


「……ありがとさん」


 プレゼントなんてなくても彼女の祝福と笑顔が見られただけで十分だと思ってしまうあたり自分も安い。
 そう思いつつ、苦笑を返す。

 と、その時背後から彼女の名前が呼ばれた。

「赤月! なにを油を売ってるんだい。
 もう帰るぞ」
「あ、竜崎先生! はい、すぐ行きます! じゃあ、失礼します!」


 バネ仕掛けの人形のように過敏な反応を見せると、慌てて竜崎の所へと駆けて行く。 
 廊下を走らないように、とさらに彼女に注意する声が二人の耳に入った。

 最後にもう一度振り返り、笑顔で大きく手を振ると竜崎と連れ立って校舎から巴が姿を消した。



 あまりに一瞬の事だったので、却って鮮烈な印象が残る。



「柳生、ちと口が軽すぎやせんか?」

 しばらくして、そう言った仁王に柳生は柔らかな笑みで返答を返す。

「そうですね。
 しかし、私が言わなければ貴方は黙っていたでしょう?」
「ほうじゃの。……言う必要もないじゃろ」
「ええ、貴方にとっては。
 けれど、巴さんはきっと知りたかったと思いますよ?
 せっかく偶然とは言え今日という日に貴方に会う事が出来たんですから」


 そんなことを言う柳生を、仁王はなんともいえぬ表情で見返す。
 何か反論すべく唇を開きかけたその時、制服のポケットに入れていた携帯がメールの着信を知らせた。

 差出人は、赤月巴。


 メールの中身を確認して、携帯を閉じた仁王は先ほど出そうとしていた言葉をしまいこみ、代わりに柳生に告げた。


「まあ、今回は感謝しとこうかの、そのお節介に」






 Sub.改めて

 今年から12/4は私にも特別な日になりました。
 仁王さん、お誕生日おめでとうございます!
 来年はちゃんとお祝いさせてくださいね。

 巴






前回は仁王が巴ちゃんのところにきていましたが今回は逆。
やたらと私の書くSSにテニス関係のお使いが多いのはキスプリラブプリの影響です(笑)。
何気に柳生のポジションが書いていて楽しかったです。
仁王、誕生日おめでとう!

2006.12.4

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