バレンタインは基本的にチョコレートだし、あちこちに特設コーナーができてて、そこにオンナがむらがってるのをよく見る。 けど、一ヶ月後のホワイトデーっつーと。 店は売りたいんだろ。 大分規模は小さいけどバレンタインの時みたいにそれっぽいコーナーはある。 けど、そこにいる客は大抵家族がバレンタインにもらった分のお返しを買いに来たっぽいおばさんとか、いてもカップルとか。 野郎の一人姿なんかあんま見ねぇんだけど。 じゃあみんないつどこでお返しなんか買ってんだ? ホワイトデーがこんな面倒なものだとは思わなかった。 何を買えばいいのかもわかんねえし。 大体、切原には何を贈れば巴が喜ぶのか皆目見当がつかない。 情けない話だがそれが事実だ。 これが食い物だとか、テニスに関するものなら話は別だ。 何が好きで何が合わないのか。大抵の事は知っている。 けどホワイトデーの贈り物となるとそれじゃちょっとダメだろとも思う。 もう少し普通の女の子が喜びそうな……となるともうお手上げというわけだ。 そもそも巴を普通の女の子に入れていいものやらどうか。 身近な若い女性というと姉がいるが、姉が喜びそうなものと巴が喜びそうなものは違う気がする。 柳辺りに相談しようかとも思ったが、先輩達の間で筒抜けになるのはゴメンだし、そうでなくても柳が完璧な答えを示してくれたとしたらそれはそれで腹立たしいのでやめておくことにした。 大体あの人たちはクリスマスからこっち正月もバレンタインも散々ジャマしてきて何考えてんだかよっぽどヒマなのかったく、……思考がそれた。 女子がたかっているような雑貨屋には一人で足を踏み入れる勇気がない。 日は迫る。 行く先々でちょっとした小物なんかを見る癖がついた。 身につける小さなアクセサリーなんかはどんなのが巴の好みなのかがわからないから冒険だろ、と思う。 大体そういったものを巴がつけているのを見た覚えがない。 「あー、クソ」 なんだこの難問。 金まで使ってなんでこんな悩まなきゃなんねえんだよ。 誰だホワイトデーなんか考えた奴。 はっきり答えがある分数学の方がまだマシだ。 面倒くせえ。 ……それなのに。 そう思うのは確かに本当なのに、数学と違って無視してしまおうとは思えないのがまた不思議なのだけど。 なんだかんだと一人右往左往して選んだホワイトデーのプレゼントを、巴は大喜びで受け取った。 初めは驚いたような顔をし、すぐにそれが満面の笑顔に変わる。 「ありがとうございます! 大切にしますね!」 包みを開けて歓声を上げた巴が、ふと切原の方を見て妙な顔をする。 「……どうかしました?」 「いや、そんな喜ぶと思わなかったから」 はっと我に返り、慌てて取り繕う。 ウソはついてない。 本当に、巴がそこまで喜ぶとは思っても見なかった。 予算だってそんなにあったわけじゃないし三倍返しなんてとてもじゃないけどありえない。 小さな皮製のキーホルダーだ。 女の子めいたものでもない。 「どうしてですか? すっごく嬉しいですよ! だって切原さん基本そういうの面倒くさがりそうだし、誰かの為に物買うなんてあんまりしなさそうだし、ホワイトデーなんて知らない振りくらいしそうだって思ってましたから」 「……ちょっと待て。お前、それほとんど悪口じゃねーか」 「だから、切原さんが適当じゃなくてちゃんと選んでくれたのが分かるからさらに嬉しいんですよ」 大切そうに、小さな贈り物を両手に握る。 確かに、誰かの為に物を買うなんて基本バカらしい行為だと思ってた。 けど。 さっき本当に一番驚いたのは、自分の贈ったものに大喜びする巴を見てメチャクチャ幸せになった自分自身に対してだった。 面倒くさいし、金は減るし、バカみたいに悩まされたし、いい事なんて全然ないはずなのに。 そんな小さいこと、どーでもいっかな、と一瞬にして思った。 こんな気分になれるんなら、こういうイベントも悪くない。 |