切原は不機嫌だった。
むっつりと口を閉じて前方を見据えている。
その視線の先には、
「お、これは旨いの」
「巴ー、こっちは何?」
「これは肉そぼろでこっちが梅おかかです」
巴と、楽しげに彼女の持参した弁当をつつく先輩たちの姿があった。
明らかな不機嫌オーラを撒き散らしている切原と目を合わさないようにして差し入れのおむすびにかじりついていたジャッカルがつかまった。
但し巴には聞こえないように小声で。
「な・ん・で先輩たちがここにいて俺の弁当食ってんスか!?」
「俺に言うな!
俺はただ誘われただけだ!」
先日、切原は巴に手作り弁当を作って欲しいと頼んだ。
快く彼女が引き受けてくれたので内心浮かれていたらこれだ。
どこから嗅ぎ付けてきたのかきっちりコートに現れた。
挙げ句気に入らないのが、ちゃんと巴には連絡済みで彼女も多めに弁当を用意していたという事実。
自分だって巴の弁当を食べるのは初めてだというのに。
なんで先輩達と一緒にそれを食わなければならないのか。
「ジャッカル先輩、仁王先輩たち連れてさっさと帰ってくれませんかね。
メッチャクチャ邪魔なんすけど」
ひそひそとジャッカルに言う切原の目は、座っている。
到底冗談とも思えない。
大変身の危険を感じるが、しかし。
「赤也、お前だったらできるか?」
「出来たら頼んでないっす」
「俺だってそんな恐ろしい真似できねえよ!」
所詮立海ヒエラルキー底辺の二人である。
大体、なんで巴の両隣が丸井先輩と仁王先輩なんだよ。
なんで俺が向かいでこんなにイラつかなきゃなんねぇんだ。
結局、我慢なんてものは性に合わない。
「先輩!」
「なんじゃ」
立ち上がると、巴を羽交い絞めにして仁王たちを睨みつける。
いきなりの事に慌てて逃れようとする巴だが、そう簡単には振りほどけない。
「切原さん、いきなりなにを……」
「弁当は譲っても、コイツは絶っ対に譲りませんからね!」
そう言い放つと巴の手を引いて立ち上がらせる。
突然過ぎてなにがなんだか巴には付いていけない。
「え、あ、あの、切原さん!?」
「ホラ、練習戻っぞ!」
「もう?
あの私まだ食事終わってない……」
「いいから来い!」
「横暴ーっ!」
ブツブツ文句を言いながら巴が切原に引きずられていく。
途中から論点が完全に変わってしまっているような気がするのだが。
二人がコートに戻っていくと、おもむろにブン太が手元の携帯で時間を確認する。
「何分保った?」
「15分」
「ほぅ、案外我慢したの」
「メシ食い終わるまでは耐えてたんじゃねぇの?」
「ってことは……柳生の勝ちか」
「あなた方、あまり切原君をからかうのはどうかと思いますよ」
そういう割にはちゃっかりと賭けに参加していた柳生に、仁王は景品のスポーツドリンクを投げ渡すと、
「ま、アイツがちょっとねだっただけでこんだけ手の込んだ弁当作ってくれるほどじゃ。
ちょっとくらい邪魔したってバチは当たらんよ」
そう言ってニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
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