「はぁ〜……」
「うるさいですよ平古場君」
ため息をついた凛にすかさず木手が言い放つ。
「別になんもいっとらんさ」
「じゃあ、鬱陶しいですよ平古場君。何回目か数える気にもならない」
「うり、永四郎、ため息くらいつかせてやれよ」
フォローしようと甲斐が口を出すが、木手は一蹴する。
「毎回毎回、鬱陶しいことこの上ない。どうせ理由なんかひとつしかないんでしょう」
そう。
こんな風に凛が鬱陶しくなる理由は一つ。
巴のことである。
「もうずっと会ってねー……限界……」
当たり前といえば当たり前だ。
だが本人にとっては深刻な問題である。
とはいえ、どうすることもできない話なので鬱陶しがる木手の気持ちもわからないでもない。
結果、
「解決する最良の方法がありますよ」
「何」
「別れて内地で別の誰かを探す。万事解決です」
こうやってズバリと斬りつけられる羽目になる。
「んなこと出来るわけねーさ! 血の色緑! 冷血漢!」
「凛、モテんのになぁ、勿体ない」
そう言われてもそんなことは心底どうでもいい。
誰も巴代わりになんかならないし。
そもそも、別の誰かでなんとかなるのなら初めからこんな厳しい選択はしない。
辛いのは判っていても、それでも欲しかったのだからしょうがない。
「金もなっかなか貯まらんしさー」
「バイトするヒマねえもんな」
テニスをしていなければ繋がらなかった縁だが、テニスがあるからなおさら会うのが難しい。
皮肉な話である。
『こんばんは、今大丈夫ですか?』
「ん」
……と、テニス部の連中相手には散々愚痴りまくり鬱陶しがられてはいるが、その実巴には何も言わない。
巴相手に泣き言を言うのはさすがに沽券に関わるというか、せめてそのくらいは格好つけたい。
電話はしょっちゅうしていてもその内容は雑談のようなものが大半である。
そのうち五割以上が大体テニスの話。
一番の共通点がそれなので当然と言えば当然である。
そして、その雑談が凛にとっては会えないというデメリットよりも大きいメリットなのである。
いつものように話していると、不意に巴が口ごもった。
「どした?」
『えっと、ですね』
何か言いづらいようなことでもあるのだろうか。
一瞬嫌な予感が頭をよぎる。
『今度のお休みに、遊びに行ってもいいですか?』
「え!?」
『もちろん、平古場さんが良ければ、ですけど』
「いい! いいに決まってる。……わんも、やーにでじ会いたいさ」
口から本音が漏れる。良くないわけがない。
電話口の向こうから良かった、と安心したような声がもれた。
会おうと思ってくれているというだけで凛の機嫌は急上昇する。
「けど、急になんで?」
『いやー、調整が付きそうってのもあるんですけど……』
妙に歯切れの悪い言葉。
「ぬー?」
『この間、木手さんからメールが来ましてですね……』
再び嫌な予感。
しかし、今度は確信に近い。
「永四郎ー!」
「なんですか朝から騒がしい」
「やー、巴にこないだの写メ送ったろー!」
「凛、画像送られたんか…やっぱ木手、血の色ミドリやさ……」
「画像じゃありませんよ。ムービーです」
「なお悪いわー! フラー!」
|